前月の1回目は、アレクサンダー・テクニークの基本と言える「頭の動き」を扱いましたが、昨日行った2回目は、何かの動作をする前に、頭を中心に自分の身体に指示を行うことについてでした。

アレクサンダー・テクニークで使うディレクション

指示を出すことを、ディレクションといいます。
アレクサンダー自身は、「ディレクション」と言う言葉を、身体に指示出すことに使ったり、身体の中のエネルギーの流れを指す言葉として使ったりしていました。

わたしたちは、自分に対して特別に指示をしません。特に慣れた動作を行うときには、そうです。
イスから立ち上がるという単純な動作でも、自分が何をしているかを言える人はとても少ないのですが、多くの人は、たた「立ち上がる」とだけ思っています。

自分の動きを意識して行うことを、アレクサンダーは重要だと考えました。
アレクサンダー・テクニークのレッスンを数十年に渡って受けた世界的な哲学者のジョン・デューイは、このテクニークは「活動の中で考える」ことだと表現しましたが、アレクサンダーはこの言葉をとても喜び、好んで使いました。

そうなのです。アレクサンダー・テクニークは、「活動の中で考える」ことなのです。
そして、何を考えるかというと、自分への身体への指示です。
特に最初に、人にとって最も重要な「頭の動き」を指示します。
それは単純なことですが、アレクサンダー・テクニークを学んでいない人は、ほとんど行なわないことです。

普通の人は、何かを行う前に「頭」のことは考えません。

ただ、この指示(ディレクション)は、筋肉繊維の一つ一つや、指の関節の角度をどうするかのような、細かい指示ではありません。

そのような指示は、身体の全体性を壊し害になるものです。

どう指示するかは、そう単純でなく、時間をかけて、自分の体験の中で学ぶ必要があります。

頭の動きという、アレクサンダー・テクニークでのオペレーティングシステム

現代のコンピュータは、インターネットを開きながら、音楽を聴いて、ワープロで仕事をしたりできます。
それぞれが勝手に動作してしまうと、コンピュータ内のメモリへのアクセスや、キーボードからの入力信号の受付などが、どれのもの分らなくなってしまいます

そのためコンピューターには、Windowsなどのオペレーティング・システム(OS)があります。
(昔のOSは、このようなマルチタスクができなかったので、一つの作業しかできませんでした)

コンピュータのOSの役割を果たしているものが、「人の頭の動き」と考えることができます。
何かをやっているときに、「頭の動きが脊椎に対して離れて」いくように使えば、身体を全体として安全に使っていることになります。

このために、何かを行う前に、まず「頭が動いて」という指示を行います。
(アレクサンダー・テクニークの重要な内容に、他に「インヒビション」がありますが、このディレクションと切り離せないもので、何かを行うときに、その前にある必要があるのですが、これについては来月詳しく扱います。)

頭の動きを考え続けることができれば、どのような動きも身体の害にならなくなります。
これは、昨日のクラスでも留意事項として、実例を挙げながら、10回以上は話したことでした。

アレクサンダーが使ったディレクション

わたしが教えるときには、主に「頭が動いて、身体全体が(その頭の動きに)ついていって、...を行う」を使ってもらいます(有名な故マージョリー・バーストー先生が使っていたものです)。

アレクサンダー自身が教えていたときには、このテクニークの中心となっている「頭と首と背中」の関係に指示を行うために、
「首が楽で...
 頭が前へ上へ行って...
 背中が長く広くなる...」
を使っていました。

アレクサンダー自身も言っていたように、どの指示も言葉だけでは十分ではありません。
自分の状態に合わせ、いろいろ使ってみると良いと思います。

わたしが、アレクサンダーの指示を余り使わない(ときどき使います)理由は、このディレクションを以前に使っていたとき(かなり長い間)に、それを行っている気になりながら、実は脊椎の一番の上の関節付近を固めていたことがあったからです。

呼吸と健康と動きに大きな影響を与える姿勢の悪い癖

そのようなディレクションを使いながら、何かを行うときに、多くの人が持つ2つの特徴に注意を向けてもらいました。

・骨盤を前に出し、背中を後ろに反らせている(「背中が長く」、の反対で縮めています。)

・腹部を緩ませてトーン(張りがない)こと(この正反対の緊張癖もあります)をなくしている

この2つが同時に起こっている人もいるし(その場合は肩甲骨が下がっています)、片方だけの人もいます。
これがあると腹部がいつも圧縮を受けているので、機能が悪くなり、内臓疾患の原因になります。

昨日の実際例

朗読

 身体を縮めて読もうとする習慣が、「頭が動いて」と考えることで起きないようにしました。
その他にも、いくつか考え方を変えて試してもらいました。
周りで聞いている方々は、一回ごとに印象が良く変わっていくことを見ました。

  歌う途中で自分を縮めようとする箇所で、「頭が(上方向に)動いて」、と指示をしてもらうことで、声の響きが各段に良くなりました。

パソコンでの作業

いつもより、頭を数センチ上にもっていくという僅かなことを行うだけで、その姿勢がかなり良くなることを他の参加者は観察しました。腕と指の動きが良くなることは、御本人も体験されました。

電車の中で立って本を読む

  先に頭に指示をして、それから「骨盤が前に行っていて、背中を反らしていた」状態を変えることで、身体の余計な緊張が取れて、本の文字が見え易くなり、内容の理解も楽になることを体験してもらいました。

 

自分の感覚では、最初は捉えられないものがある

これらのことはとても単純で、短時間の内に変化が起こるのですが、人の感覚にとってはあまりに新しく変に感じます。
脳は、どんなに効果があると理解するものでも、慣れない体験を最初は受けつけることを嫌うからです。

そのためこの学びを継続して、自分の体験と他の参加者の変化を見て納得する経験を積むことで、ようやく自分のものになります。

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