BodyChanceのプロコースで教えるアレクサンダー・テクニーク教師ヤスヒロ(石田 康裕)のページです。テクニークの歴史や役立ち情報など多くを載せています。教育分野(学校の先生など)での応用にも力を入れています。ヤスヒロは、埼玉・東京でのレッスン、出張レッスンを行っています。機械工学修士で27年間、高校で教えました。

声の悩みと伝わる話し方

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「教室が騒がしくなると声が通らない」、「授業が続いて声を出し続けると、喉に負担に感じる」などの問題を抱えている先生がいらっしゃることでしょう。

また、声の悩みはなくても、「話していることが、生徒の中に入っていかない」と感じることがあるかも知れません。
声が大きい先生が、必ずしも授業がうまく行っているわけではないし、先生の声の問題は複雑です。

近頃の若い先生は、最初の研修が手厚いので、担当の先生から話し方の指導を受けている人もいるかもしれませんね。
先生方は、それぞれ自分なりに工夫してきているので、素晴らしい先生から鍛えてもらうことは、その後の教員生活に役立つでしょう。

わたしはそのような指導を受けたことが無かったのですが、みなさんはいかがでしたでしょうか。

多くの先生たちは、少々の問題があっても、何年か経験を重ねるうちにそれなりに乗り越えて、自分の話し方についてはときどき意識する程度ではないでしょうか。

わたしは、自分の声は問題だと思っていましたが、一般の「話し方講座」などには行こうとは思いませんでした。
行っても、何か無理する必要がありそうで、それでは解決するような気がしなかったからです。

これは、半分はその努力をサボってしまったことの言い訳ですが、そのように直接的に見えた対処法を行うことに嫌悪感があったのです(県の主催する研修に行っても、負担なだけだったのが原因だったのでしょう)。

アレクサンダー・テクニークは、全く違っていました。

アレクサンダー・テクニークがなぜ先生の声の助けになるか

アレクサンダー・テクニークで学ぶことは、話すときの「自分の使い方(ユース)」です。
それが間接的に声を改善します。

「声を大きく」とか「はっきり話すように」という直接的な指示で変えずに、「何を考え」、「どう身体を使うか」に取り組みます。
その結果として、頑張ることがなくなり、身体に余計な緊張も減り、声が変わります。

これについて3つを取り上げます。

(1)身体の使い方と呼吸

身体の使い方で、最も影響を受けるのは呼吸です。

話すときや普通に休んでいるときに、みなさんは呼吸をすると身体のどの部分が動きますか。
呼吸を浅いと感じることがありませんか。

アレクサンダー・テクニークを使って、自分の「身体の使い方」を無理のないものにすると、まず呼吸に影響がでます(参考:「立ち姿勢の3つの悪癖」)。
実はF.M.アレクサンダーが教え始めた当初、このワークは声と呼吸を改善するものとして知られていました。
彼は「ブリージング・マン(呼吸の人)」と呼ばれ、呼吸器系疾患の多かった20世紀初めのロンドンで、医師が患者を送り、大きな成果をあげていました。

わたし自身もアレクサンダー・テクニークを学んだことの大きな変化の一つは、呼吸がとても深くなったことです。
頭の身体に対する動きを変えることで、特に身体の外側の筋肉の余分な緊張が減り、呼吸を妨げるものがなくなります。

呼吸は、直接的に改善するものでなく、身体の使い方が良くなることで自然に良くなります。
(参考:「呼吸と声を改善するアレクサンダー・テクニーク」が始まりました

(2)声の器官へ効果

誰かが話すときの重心は、程度の差はありますが、だいたい
① 重心を爪先側の前の方に持って行く
② 重心を踵(かかと)側の後ろの方に持って行く
のどちらかになっています。

話しているときに、
・何かを少しでも強く伝えたいと思う
と前重心になることが多く、
・少し自分を落ち着かせて話そう
としたりすると、後ろ重心になります。

これは普通に思えますが、実はどちらも、自分に下向きの圧力をかけ身体に負担をかけています。
話した後に疲れた感じがするのは、それが原因です。
また、喉にも負担をかけます。
身体を下げることで、喉の周りの筋肉を緊張させ、「喉を押潰す」ことになるからです。
(普段余り気にしないですが、腕も声に大きく影響します。参考:土曜特別講座「腕の使い方と声・呼吸の関係を知る」)

このときに感じる「自分の身体内の圧力」は余分なのですが、普通は必要だと思っています。
そのサポートが無いと、話していて落ち着きません。
とくに強調して話そうとするときに、多くの人は、「身体内に感じる力」と「聴いている人への声のインパクト」がイコールになっているからです。

先生にとって、自分の身体の疲れ以上にこれが大事なのは、聞いている生徒の受け取る印象が違うことです。
前重心のとき――押しつけられている感じがして、ひどく言えば脅迫されているように聞こえる
後重心のとき――突き放されたようで、良いか悪いかの評価をされながら話されている感じに聞こえる
つまり、どちらも聞いていて居心地の良いものではありません。
もちろんこれは、程度の差があるので、影響はさまざまです。

どちらにも行かずに、話すときの頭と身体の動きに注意しながら、自分のエネルギーを、上方向に向かわせ、そして声が生徒に向かうようにする方法があります。

そのような話し方をすると、聞いている人の印象が変わります。
ワークショップでそう話してもらうと、聞いている人が
「努力して聞こうとしなくても、言葉が楽に耳に入ってくる」
「理解がしやすい」
という印象を持ちます。

これは、聞いている全ての参加者が体験できることです。
わたしは、このことが分かってから、話し方がうまいと言われる先生は、そうなっている人が多いことに気づきました。

話している人のこの変化は、ワークショップでは多くの場合ですぐに起こります。
でも、残念なことに、その変化を起こしながら話している人は「話しているいつもの感じ」が持てないのです。
不慣れな違和感のある感覚に、戸惑いを覚えています。

自分の感覚に反している点が、この「新しい自分の使い方」の最も困難な所です。
短時間にその話し方は可能なのですが、あまりにも不自然に感じるので、うまく行っているような気がしません。
これがあるために、人の話し方の癖はなかなか変わりません。自分で、それが正しいとは思えないのですから。

この「習慣の力」が人の変化の妨げになっていることと、それがどのようなもので、どう対処すれば良いかを考え出したことは、アレクサンダーの大きな発見の1つです。
彼はそのことについて、著書に詳しく書いています。

変わるための最初は、自分が聞く側に立ったときに本当にそれが起こっていることを実体験し確信を持つことです。
聞いているときに、その違いがわかるようになることです。
不思議なことですが、その違いが分かっても、本当にそれが起こっていることを信じられるようになるまでに時間がかかるものです。
普通は何回も体験する必要があります。

信じることができないと、変化への取り組みは弱いものにならざるを得ません。

(3)「話す自分への考え」を明確にすることで声は変わる

アレクサンダー・テクニークの学びが進むと、「活動を行っているときに何を考えているか」を、より意識するようになります。

アレクサンダーは、「意識的コントロール」が重要だと著書で教えましたが、この言葉には、誤解が多いので、反発を感じる人も多いことでしょう。例で考えてみます。

台風などの緊急事態が起こって教室で生徒に指示を出すときに、自然と自分の話し方が変わることを、経験していないでしょうか。
状況が、生徒にも緊張感を持たせ、その緊急性から先生の「話すことに対する考え」も明確です。

別の例です。
少人数の生徒の前で話すときと、クラス全体の前で話すとき、学年集会でマイクなしで話すときなど、それほど意識しなくても声は変わることに気づいたことはないでしょうか。
その場に行けば、気持ちが決まるので、声は自然に変わります。

これらのときに、「どのくらいの大きさの声で話そうか」とか、「口をどのように動かそうか」とかの細かい指示は、それほど考えていないことでしょう。
ある種の「状況に任せる」ことが必要です。
その状況に対して、脳の中の「考え」がすでに決まっているからです。

逆にそのような場合に、自分の声が気になったり、「どういう声をだそうか」などと考え過ぎると、作為的になり声がうまく出ません。
研究授業なので、偉い先生から評価されていると思うと、その考えが頭の中からなくなるまで、声が出なかったりしないでしょうか。

特に、声に悩んでいる人にとっては、直接的に「声を大きく」とか、「はっきりと」という自分への指示は、マイナスに作用します。
自分の気持ちの中に起こる「心配」や「不安」の考えが、習慣になった身体緊張を引き起こし、それが妨げになるからです。

エネルギーの向かうべき方向は、身体の緊張ではなく、声を出すときに必要な動きに対してです。
アレクサンダーは、これを「再方向づけ(re-direction)」と呼びました。

これらのことをさらに発展させていくと、教材研究で準備した「授業の内容についての考え」や、「その先生のそれまでの経験」、「生徒に対する思い」などバックグラウンドにあるものが、「話すときの自分への考え」に影響することがわかります。

それらを深めていくプロセスに、アレクサンダー・テクニークを使うことができます。
それは、誰にでも同じというわけではないのでここでは触れませんが、ワークショップに参加して、実際の授業の場面を取り上げる場面を見れば、異なる可能性が見つかることが理解できるでしょう。

 

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