アレクサンダー・テクニークの「プライマリ・コントロール」を、トーマス・マイヤースの「アナトミー・トレイン」との関連で見ています。
今回は背中側の線ですが、それはアレクサンダーが生徒に教えるときに使った有名なディレクション(自分に行う指示のことです)の
「首が自由で、頭が前と上に行って、背中が長く広がるように」
と直接的に関係します。
スーパーフィシャル・バック・ライン(SBL Superficial Back Line)
アナトミー・トレインには3つの主要な「筋―筋膜経線」があり、マイヤースが最初に説明しているのがこの背中側の線の「スーパーフィシャル・バック・ライン(浅い層にある背中のライン)」SBLです。
アレクサンダー・テクニークで鍵となる「頭-首-背中」が含まれるこの線を、マイヤースも重要に思っていることは興味深いことです
「スーパーフィシャル」は「浅い」という意味ですが、脊椎の周りでは最も深い層を通っているので、「浅い層」にこだわって考える必要はありません。
(1)SBLの要素
SBLは、次のように伸びる線です。
- 眼の上のあたりから始まって、上方向に頭皮に沿って走り、
- 後ろ頭を通り、脊椎の後ろ側に沿って下って行き、下端にある尾骨の手前の仙骨まで行き、
- 仙骨から、お尻の下の坐骨につながり、
- 脚の背面を通って下って行き、膝まで行き
- さらに下がって、踵を抜けて、
- ぐるっと回って足の裏の指先まで、
解剖的な知識に詳しい人のために、この線がどう構成されているかを示しますが、細かい点にこだわる必要はありません。
1.帽状腱膜―2.脊柱起立筋(腰仙椎筋膜)―3.仙結節靭帯―4.ハムストリングス―5.腓腹筋/アキレス腱―6.足底筋膜と短趾屈筋
(このブログでは著作権を考えて彼の図を載せませんが、他のWebページで簡単に探せますので、検索してみてください。
「アナトミー・トレイン」の本は全部をしっかり読もうとすると大変ですが、つまみ食い的に読んでも役に立つ所があります。分かり易い写真や絵が豊富です。)
(2)SBLのイメージを持つ
動きがあってもなくても、この線を自分と他の人に観察できるようにするためには、実際のイメージを持つ必要があります。
人によって身体各部のイメージの鮮やかさはとても異なりますが、多くの人はそれが充分でないので、上記の線を手で触ってゆっくりと辿ってみてください。
それを繰り返したり、頭の中で自分の実際の身体にマッピングしながら線を辿ることはイメージを強化する助けになります。
次に、この線をどのように捉えるかをアレクサンダー・テクニークとの関連で考えてみます。
(3)拮抗的な引張り
アレクサンダーは、65歳のときに、ベッドフォード体育大学という所でレクチャーを行いました。
彼が多くの人の前でレクチャーを行うのは、珍しいことでした。余り効果がないと考えていたからですが、このときは大学の創立者でもあった先生がとても興味を持ち、レクチャーを頼んだようです。
その中で彼は、女生徒を使ってイスから立つことを実演しながら、
「彼女は、背中のここから頭が前へ行くように、そして両膝が前へ、お尻が[hips]が後ろへと行くようにディレクションを行っています。それでしか『拮抗的な引張り[antagonistic pull]』を得ることができません。普通の身体鍛錬では、この『拮抗的な引張り』が起きないのですが、それは重要なのです。」
と言っています。
この「拮抗的な引張り」という表現を、彼は早くから使っていました。
「拮抗的な引張り」は、アナトミー・トレインの「筋―筋膜経線」で固めている部分がないことを示していると思います。
特に行っている活動の中で、そうなることが重要です。
それには、彼が指示したディレクション、
「首が自由で、頭が前と上に行って、背中が長く広がるように」
が役に立ちます。
わたしは自分に対する指示として、マージョリー・バーストーが使った「頭が動いて、身体全体がついていく」を主に使っていますが、それも同じです。)
「拮抗的な引っ張り」について
わたしは 十年ほど ピラティスを指導していますが、ピラティスではオポジションという考え方があります。「二方向性の伸び」という表現を私自身は使いますが、師匠からは、二方向 と言ってしまうと直線的にすぎる、身体はもっと有機的に動くものだよ、と言われています。
普通の身体鍛錬ではこの拮抗的な引っ張りが起きない、ということですが、ピラティスでなくても、すぐに起こせそうに思いますが、身体鍛錬では起きない種類の引っ張りなのでしょうか。
クララさん、お問合せありがとうございます。
ご指摘の通りで、ある部分だけを取り上げる場合には、そこに「拮抗的な引張」を起こすことができます。
それなのでここで問題としているのは、身体を全体としてうまく使うために必要な「トーン(張り)」だと考えてもらえれば良いと思います。
そしてそれは、頭-首-背中を通る線上のトーンです。
普通の身体鍛錬では、ある部分のトーンを上げようとして、他の部分のトーンを失ってしまうことがよく起きます。
アレクサンダーが言っていたのは、どこかを鍛錬しようとして、多くの場合で頭を背骨の方向に押し下げてしまい、全体性を失うことでした。
「頭-首ー背中」を通る線上での「拮抗的な引張り」があれば、プライマリコントロールとして、他の部分が有機的に働く助けになるでしょう。アナトミー・トレインでも多くの「筋-筋膜経線」がその部分を通っているからです。
ただ、それが「唯一のコントロール」ではないことにも注意してください。
人体の動きは単純でないので、いろいろな動きには「セカンダリ」も考える必要があることでしょう重要です。
また「拮抗的な引張り」は、「適切なトーン(張り)」のことであって「緊張」ではないことに注意して下さい。
もし人が、そこに「引張りがある」と感じるまで行ったら、それはおそらく「緊張」のある状態です。