身体の後ろ側の線SBL(スーパーフィシャル・バック・ライン)の続きです。

わたしたちが身体の設計に合った動きをするためには、マイヤースのSBLで、アレクサンダーの言う「拮抗的な引張り」が起きる必要があります。
それは主に、SBLの線上でどこも縮まることが無く伸びることができることです。

SBLとアレクサンダー・テクニーク

SBLは、背中側を通る線ですが、アレクサンダー・テクニークの観点からいえば、「後ろ頭」が特に重要です。
ここには「後頭下筋(こうとうかきん)」という小さな筋肉群があり、マイヤースは
「最深層筋(後頭下筋のこと)はSBL全体のリリースにとても重要で、後頭直筋と後頭斜筋はSBLの機能の中心と考えることができる」
と書いています。

アレクサンダーも彼の4冊目の著書に、友人の医師が書いた「後頭下筋」についての記事の引用を載せているくらいです。

「頭が動く」ためには、まずこの「後頭下筋」が動くことが必要です。
さらに、SBLが「後ろ頭→脊柱→坐骨→腿の背面→下脚の背面→踵→足の底面」と通ることを考えれば、この線のどこかに緊張があると頭の動きを妨げることもすぐに分かります。
頭を動かそうとするときに、その周辺だけを考えるだけでは足りないということです。

アレクサンダーは著書「自分の使い方」の第1章で、喉の障害を克服しようとして行った彼の発見の過程を述べていますが、それはまさにSBLを、頭から順に下がって行っています。
(1)彼が最初に発見したのは、首の辺りを縮めて、頭を後ろに引いてしまうことでした。
(2)次に、背中が長くなる必要があるということです。
これは多くの人が持つ、大きな問題です。
立っているときに、腰を突き出して背中を反らせ、腰痛や肩こりを持っている人のほとんどがそうなっているからです。
(もちろん彼は、背中を長くするために、緊張させて背中を狭くしまうことは逆効果だと見つけていて、「背中が広く」の指示も加えました。)
これについては、ぜひ他のいろいろな人のSBLを観察してみてください。
(3)最後に彼は、「床を掴むように歩こうとしていたこと」が、彼全体の特有の使い方で、それが「頭が前へ上へ」と行かせることを困難にしている、ことを見つけました。
脚や足の裏でやっていることで頭の動きが影響を受けることは、まさにSBLです。
彼は著書の中で、「アレクサンダー・テクニークを行なえば扁平足が改善する」とも言っていますが、SBLにより、頭と足底が繋がっていることを考えると、それは有り得ることです。

後頭下筋

マイヤースはロルファーで筋膜リリースを専門としていますが、既に書いたようにSBLでの後頭下筋の重要性を「アナトミー・トレイン」の中で強調していています。
彼は他文献からの引用で、この筋肉群には筋肉の伸びを感じる「筋紡錘(きんぼうすい)」というセンサーがとても多く、1グラムの個数が36個で、大殿筋の0.7個しかないと記しています。
また、ネコが空中から落ちる時にすばやく身体の向きを整えることができるのは、頭を水平に首を伸ばすことで後頭下筋のそのセンサーが働き、脳がその信号により「反射 [reflex]」の動きを指示するからだ、とも言っています。

SBLで最も直接的に関わるのは後頭直筋の「小後頭直筋」と「大後頭直筋」で、それぞれ左右で対になっています、
「小後頭直筋」は後頭の最も奥、脊椎付近を起始に、脊椎の一番上の「環椎(かんつい)」の棘(きょく 後ろ方向への出っ張り)まで伸びています。背面から見て中心線を挟んで対称に位置しています。
「大後頭直筋」は、小後頭直筋の少し脇から脊椎の二番目の「軸椎(じくつい)」の棘に向かって伸びているより大きな筋肉です。
この2対の筋肉の位置を、自分の首や頭に触りながらイメージすると良いと思います。
(ここでは図を載せませんが、Webで探して確認してみてください。)。

この2つがかなり奥にあることは重要です。
後ろ頭に触ると、まず「僧帽筋(そうぼうきん)」があり、その下に、「頭半棘筋」があるので、「後頭直筋」はさらに深層に位置します。

最も外側にある「僧帽筋」は、腕の動きにとても重要ですが、SBLには含まれていません。
もちろん腕を下方向に押し下げて肩甲骨が下がれば、多くの人の場合は僧帽筋が頭を引き下げるので、SBLに影響を与えます。でも僧帽筋に柔軟性があって伸縮できれば、肩甲骨の動きが頭の前と上に向かう動きに影響せずに、腕の動きはSBLに影響することはありません。

←前へ 次へ→
←1回目へ