先週行った新宿・朝日カルチャーセンターでの3ヵ月講座「楽に歌うためのアレクサンダー・テクニーク」2回目の内容です。

最初に、参加者1人1人に、歩くときの、自分の身体の使い方を変えることを体験をしてもらいました。
これにより、身体が軽くなり、呼吸が深くなります。

次に、参加者の好きな歌を取り上げて、歌い方や、歌うときの考えを変えることで、どのような違いが起こるかを、全員で見ていきました。

胸や、胴体を固めない身体の使い方

身体の使い方が変わると、まず呼吸が変わります。
みなさんは、歌ったり、話したりするときに、自分の胸の辺りをどう使っているかに気づいていますでしょうか。
試しに、そこに注意を向けながら、歌ってみてください。

多くの人が、歌い始める前に、準備として「構えてしまい」、身体を固めます。

歌うことは、特別だという意識があるので、この傾向は、話すときよりも強く表れます。
それが要らない努力、ということを理解してもらうには、いつも少し時間がかかります。

また、歌っている途中でも、何かの表現をしたり、低い音を出そうとするときに、頭を下げることは、身体を固める原因になります。
(頭を下げることは、構わないのですが、胴体を固めない、下げ方をしていないとうことです。)

これが、歌うことの妨げになるのは、胸の周りの緊張は、肋骨や鎖骨の動きを妨げ、入ってくる空気の量を少なくしてしまうからです。
その緊張を取らずに、多くの空気を取り込もうとするので、さらに体を頑張らせることになります。
また、胴体を固めることは、音の共鳴にも影響します。

アレクサンダー・テクニークを使い、頭の動きを整えて、胸の辺りを固める力をやめることで、それが解消されます。

今回のクラスでも、全体を通して、各参加者に、胴体を固めない歌い方を、試してもらいました。
参加者からは、「声に、透明感がでてきた」などの感想がありました。

 頭を後ろに引くと、音程が不安定になり、声が伸びなくなる

アレクサンダー・テクニークを作ったF.M.アレクサンダーは、声が出なくなる原因を見つけようとして、自分が、頭を後ろに引いてることを、観察しました。

このことは、多くの人にも見ることができます。
特に、繊細な感覚を持ち、恥ずかしがり屋の傾向を持つ人に多く見られますし、自分がやろうとすることに、躊躇する気持ちや、不安があると、そうなります。

他の人が歌っている所を見て、頭を後ろに引くことがないか、観察してみて下さい。
ほとんどの人が、歌の途中で、何度かそうしていることに気づくでしょう。
(頭を後ろに引いているように見えても、頸椎が伸びるようにしていて、良い効果を作れる人がいます。
力が入っているかどうかは、声の質で判断できます。)

特に、音程が不安定になったり、声が硬くなり、豊かさがなくなるときに、そこに何が起こっているかを見て下さい。
さまざまな動きが起こっていますが、徐々に、頭の胴体に対する動きの関係に、少しずつパターンがあることに気づきます。

この日の参加者でも、頭を後ろに引くことをやめることで、不安定だった音程が大きく改善をした方がいらっしゃいました。
また、他にも、頭を後ろに引く傾向がとても強い方がいましたが、そのときに、強く腰を前に押し出してもいました。これが変わることで、歌は、大きく変わりました。
(これらも、本人はその大きな変化に気づけないものです。見ている人の方が、はっきり分かります。)

考えを変えるだけで、声に変化がでる

もう一つ、歌っている本人には、分かりにくいけれど、聞いている人には、変化がはっきり分かることに、歌い手の持つ「考え」があります。

歌っている本人には、その変化が感じにくいのは、多くの人が、実際の声の変化よりも、自分の筋肉を固めたり緩めたりする感覚で、自分の声を判断しているからです。
楽器の演奏でもそうですが、身体に力入っていれば、大きな音がでている、と思うことはその一例です。

自分の出している音を聞くことについて、一人一人異なっていることは、驚くほどですが、ときどき、他の人の音を聞くときに、同じ音に対して、良い悪いについて正反対の感想を聞くことがをあることは、興味深いことです。

歌うときには、「声を聞く人に届ける」という考えがあることで、身体がそれを実現しようとしてくれます。
でも、特に歌い始めは、自分の声がどう出ているかを心配するので、届けようとする考えがなくなります。
その結果、心配している部分に意識が向き、声も、いわば、その「心配の場所に留まる」ようになってしまい、聞いている人に届きません。

その心配が起こるときにも、「声を聞く人に届ける」いう考えを、持ち続けるだけで、歌い方も声も大きく
変わります。

「声を聞く人に届ける」と言う考えは、伸ばしている音に対して、最後まで持ち続けることも有効です。

また、はっきりとした言葉を届けようと思うと、唇も明確に、動くようになります。

さらに歌の情景を思い浮かべることが役に立ちます。
(これも、思い浮かべるという思考操作は、個人個人でとても異なります。一流の歌手は、このプロセスを深く行えるようになった人だと、思っています。

これらを行うことで、参加者からは、「言葉が、はっきり聞き取りやすくなった」とか、「歌の情景が伝わってきた」などの感想がありました。

 

■自分を変えることを学ぶ

参加者は多くの新しい体験をしたのですが、この体験はだんだんと薄れて行きます。
普通は何日かすると、前の状態に戻ります。

ほんの少し考えを変えることが有効だと分かっても、それだけでは、人はなかなか実行しようとしません。
クラスの後でしばらくはやっていても、いつのまにか、やらなくなっていることに気づいて、次のクラスで、「ああ、そうだった」と思い出します。

「自分はそうではない」と言う方もいることでしょうが、とても稀だと思います。
わたしは、自分が、そうだと、に気づくまでに時間がかかりました。

変化を自分のものにするためには、変えようとする内容を本当に自分の問題だと思い、ぜひ変えたいという意識の高まりと、身体を動かすマインドの準備が必要だからです。
その気が熟すまでは、何度も体験していかなくてはなりません。
変わる体験は、時間が必要で、努力と忍耐が、必要です。

アレクサンダー・テクニークを使うと、変化がすぐに起こることで、身体は十分にその能力を持つことが分かります。
なので、変化はマインドの問題です。
高い技術を持っていたアレクサンダーは、「わたしの行ったことを実行すれば、誰でも、わたのようになれる。でも、誰も、メンタルな作業をやろうとしない。」と言って、思考を行うことの難しさを指摘しています。