マージョリー・バーローは、アレクサンダー・メモリアルレクチャーで、2回話しをしています。
1回目は、1965年で、F.M.アレクサンダーの死後10年目。マージョリー・バーローは50歳でした。
2回目は、その30年後の1995年。彼女は80歳です。
(どちらも、「An Examined Life」(Trevor Allan Davies 著MORNUM TIME PRESS)の付録(1965年19頁、1995年13頁)に、収録されています。この本は、マージョリーが、著者に話した内容で作られています。)

マージョリー・バーローが持っていたテクニークの将来への心配

マージョリーの話が、わたしたちにとって意味があるのは、彼女が伯父のF.M.の死後、その教えが歪められていくことを、ずっと心配いていたことです。
どちらのレクチャーもそれが強く表れています。

これを読むことで、彼女が、当時の現状の何を不満に思っていたか、F.M.が教えていたことの何が本質だと考えていたか、を知ることができます。

例えば、1965年のレクチャーでは、
「この会(STATのこと)もアレクサンダーの影ですが、それは急速に長くなっています。その影が大きくなっていく中で、このレクチャーは、その内実を失わないようにとの、願いを込めて行いたいと思います。

わたしたちの原点をもう一度調べたいのです。
これから後に起こることが、何かの意味を持つようにするために、そうする必要がありました。
特にアレクサンダーがどう教えたかを知らない人たちのために。」
と言っています。

1995年のレクチャーは、特に、ハンズ・オンだけでセラピーのようになってしまっている当時の一部の現状への警鐘を言い、「オーダーする(言葉で指示する、ディレクションを送る)」ことが、本来どういうことかを、丁寧に説明しています。

1965年アレクサンダー・メモリアルレクチャー

彼女はこの中で、アレクサンダーがテクニークを見つけた過程をたどっています。
アレクサンダーの著書「自分の使い方」第1章の内容に、沿ってはいますが、マージョリーの解釈があると、それらはまた、新しい視点を与えてくれます。

インヒビション

アレクサンダーが、喉の障害という問題の解決に、「正しいことをする [do right]」のではなく、「間違ってやっている 」ことを止めること、を考えるようになり、それをどう実現して行ったかを、特に彼女は書いています。

この方法は、一般的な普通の問題解決(=正しいことを行なう)とは、逆に向かうもので、それが、アレクサンダー・テクニークの特徴だと書き、そのときに、
「何かをしようとするときの、その考えが来る瞬間」を利用して、インヒビションすることについて書いています。

「電車が通ることになる線路を敷く」

実際に動こうとうすると、前に使っていた神経回路を使った習慣的な動きが起こってしまいます。
それには、アレクサンダーは、その動きをしようとはせずに、新しい神経パターンの練習をしなくてはなりませんでした。
それをマージョリーは「電車が通ることになる線路を敷く」と言っています。

新しいパターンの動きでは、ディレクションを行っても、自分の動きはすぐに変わりません。電車が通らないことで、がっかりすることなく、線路を敷くことを続けられるでしょうか?
(なかなか根気がもてないですが)

アレクサンダーが考えていた意識的コントロールというビジョン

マージョリ-は、このレクチャーで、アレクサンダーの教えは2つの側面があると言っています。
一つは、今まで見たような「身体が、妨げを受けずに働くようにする手段」です。

もう一つは、アレクサンダーが「意識的な次元」と呼んだもので、それをマージョリーは「わたしたちの体験のより深い面に向かわせる」ものだと言っています。

これについては、デルファイの神託「汝自身を知れ」だと言いながら、引それがどのような意味で、わたしたちの課題が何かを、書いています。

このテクニークを学ぶとは

これまで見たように、このレクチャーでアレクサンダー・テクニークの概要がわかります。

アレクサンダーは、個人レッスンを受ける生徒に、彼の本を1冊は読むようにと、言ってました。
でも、それは大変なので、多くの個人レッスンの生徒は読まなかったようです。(もちろん、トレーニーたち、特にマージョリー・バーロー、マージョリー・バーストー、ウォルター・キャリントンは、その内容を非常に重要だと考えていて、生徒たちに読むように勧めています)

マージョリーは、このレクチャーの後では、これを小冊子にして、レッスンを受ける自分の生徒に読むようにと渡していました。

 

1995年レクチャー

マージョリーバーローは、このレクチャーの大半を、言葉による「オーダー(指示)」について説明しています。

冒頭から、
「最近は、手を使ってワークすることに、とても重きが置かれています。
わたしの言うことを信じる必要はありませんが、それはわたしの中では2番目です。
現在、多くのボディワークが、いろいろな方法を使っています。
このワークが異なっているのは、わたしたちが「階層構造」があることを知っているからです。
身体で起きることには順番があり、わたしたちはそれを考えるので、他のボディワークより価値があるのです。」
と警告を行い、
「オーダーすることへの信頼は、生徒に伝える最も難しいことの1つです。
最初は、生徒はその言葉を信じません。

彼が見つけたのは、身体の部分に、言葉による正しいメッセージを送ることができたら、奇跡が起こることでした。」
と続けています。

 

さらにマージョリーは、アレクサンダーの言葉として、
「このワークは、シンキング(考える)とは何かを見つけるエクササイズだ。
君たちは誰も、どうシンキングするかを知らない。」
を引用し、とても印象的な言葉
「君が、シンキングを行っていると思っているときは、感じようとしているし、
感じていると思っているときは、ドゥイング(やろうとすること)をしているんだ。」
を紹介し、当時は理解しなかった、と言っていました。

このレクチャーは、自分にワークするときの、オーダーの理解を深めますし、
アレクサンダー教師として、生徒にオーダーを教えることを、の考え方を示しています。