今回は、ショーン・キャリーの著書「シンク モア・ドゥ レス(Think More Do Less)考えを多くして、やることを少なくする)」の紹介です。

この本は、2017年と、まだ出版されたばかりの本で、hite社から出版されていてWebページから購入することができます。(残念ながら、邦訳はありません)

副題に「マージョリー・バーローにより、アレクサンダー・テクニークを教え、学ぶことを深める」とあるように、マージョリー・バーローがどう教えていたかを中心に書いています。

マージョリー・バーロー

マージョリ・バーローは、F.M.アレクサンダーから直接教えを受けた第一世代教師の中でも、彼の姪であったことから、アレクサンダーの教え方をできるだけ忠実に守ろうとしていました。

そのため、この本では、バーローの教え方を通して、F.M.アレクサンダー本人がどのように教えていたかを知ることができます。

もちろん、どのような弟子も、師の教えを全て吸収することはないので、マージョリーが、理解したアレクサンダーということになります。

でも、彼女の言う「純粋さ purity」を保とうとして、彼女が大きな変更を行わなかったことは、わたしたちにとって、この本の内容を意味あるものにしています。

著者ショーン・キャリー

著者のショーンはアレクサンダー教師ですが、バーローとは別のトレーニング・スクールを修了しています。
F.M.がどう教えたかに興味を持ち、彼女からその情報を得ようとして1994年から1999年まで長期的にレッスンを受けました。

ショーン、ウォルター・キャリントンとの有名な対談集「Personally Speaking」(2001年)と「Explaining the Alexander Technique」(2004年)も出していて、この2冊はテクニークの歴史や、アレクサンダーが教えたことについてとても役立つ情報を与えてくれるものです(わたしがBodyChanceのブックコースを作ったときに、主に引用させてもらいました。)

「シンク モア、ドゥ レス」

この本は、具体的には、現在ではプロシージャと呼ばれることがある、チェアワークやモンキー、ウィスパード・アーなど、について、F.M.がそれらをどう教えていたかを書いています。
この本を見るとマージョリーが主に教えを受けた1930年代(アレクサンダーは60代でした)には、アレクサンダーはいろいろなことを教えていたようです。
この本の目次とそのページ数をのせておきます。

1           イントロダクション(39ページ)
2            立ち位置から座り、座り位置から立つ(26ページ)
3            坐骨の上で動く(10ページ)
4            立つ(6ページ)
5            足首から後ろに戻る(7ページ)
6            つま先の上に乗る(8ページ)
7            壁のワーク(12ページ)
8            モンキー               (8ページ)
9            ハンズ・オーバー・ザ・バック・オブ・ザ・チェア(15ページ)
10          ライング・ダウン・ワークを教える (31ページ)
11           自分で行うライング・ダウン・ワーク(10ページ)
12          ウィスパード・アー(12ページ)
13          テクニークのこれからの見通しと実践(10ページ)
付 録    エリザベス・ウォーカーからのレッスン(9ページ)

これを見ると分かるように、アレクサンダーは、ハウツー本を書きませんでしたが、まさにこの本は、それにあたることがわかります。

アレクサンダーは、観察することと自分で考えることが重要だと言い、ハウツー本のような記述が、誤解を招くことが多いこともあって、それを嫌っていました。
それはいまも一面の真実がありますが、レクサンダーの教えを直接見ることができないわたしたちには、探求の重要な手がかりになります。

アレクサンダーはまた、晩年になるに従ってこれらの多くを教えなくなり、チェアワークの割合が多くなりました。
そのため、今ほどには文献のなかった時代(アレクサンダーの1955年の没後しばらく経った1900年代後半)には、本当に彼がそれを教えていたのかの疑問や、第一世代の教師の誰それが始めたなどの、いろいろな憶測が起こっていたようです。この本は、そのことについても正しい情報を与えてくれます。

この本の他の特徴

この本は、マージョリー・バーローがどう教えたかを中心に書かれていますが、著者のショーンは、他の第一世代教師からレッスンを受けたり、関連情報も多く調べていて、そこからの情報も加えています。
(出版が新しいので、文献が多く利用できるようになています)

特に他の第一世代教師が、マージョリーと異なることを言っていたら、それを記しています。

またプロシージャ関連だけでなく、折に触れて歴史的な情報や経緯も知ることができます。

特に「イントロダクション」の章では、マージョリーが言ったこととして、
「アレクサンダーが疲れてイスに座ろうとしたときに、鏡に映っていた彼が、声を出すときの「頭を後ろに引く」をやっていることに気づいて衝撃を受けた」
と書いています。
声に取り組んだアレクサンダーしか知らなかったわたしたちには、興味深い所です。

アレクサンダーはテーブルワークについて教えた

この本で他にも興味深かったのは、アレクサンダーが教師トレーニングコースの最初のグループには、テーブルワーク(マージョリーは、ライング・ダウン・ワークと呼んでいました)の方法を教えていたことです。

もちろん、丁寧にやり方を教えたわけでなく、生徒がテーブルワークをやっている所を見て、アドバイスした程度でしょう。

彼は、良く知られているように、自分でテーブル・ワークを教えることはありませんでした。

でもアシスタント教師たちには、テーブルでワークをさせていて、そのため、キャリントンは、テーブルワークは、弟子たちが主に発展させたものだ、と説明しています。

この本からは、アレクサンダー自身の関わりもあったことが伺えます。
(キャリントンは、教師トレーニングコースの1期目のメンバーが修了した後の2期目のメンバーでした。)

意識を狭くしないために

この本は、ハンズ・オンのやり方について多くの説明があるので、アレクサンダー教師にはとても役立つ内容ですが、テクニークを学び始めた人にも得るものがあることでしょう。

例えば、この本の至るところで、テクニークを使う最初には、「外側を見て、何かを見るように」との注意があり、意識を狭くしないことの大切さが書いてあります。
これは誰にとっても役立ちます。