みなさんのペンやハシの持ち方は、どうなっていますか。
持ち方が悪い、と言われたことはありませか。
私はハシの持ち方は、高校のときに直しました。
町内の運動会だったと思うのですが(普通は出ないのに、なぜ出たのか記憶が曖昧です)、そこで大豆を片方の皿からハシでつまんで隣の皿に移すというとてもローカルな競争で、おばさんに大差で負けたからです。
これはまずい、と思いそのときに時間をかけてハシの持ち方は治しました。
ちなみに、鉛筆の持ち方を直したのはずっと後で、おそらく教員になった30代の頃だと思います。
(2本の鉛筆をハシを持つように持ち、1本を抜くというやり方でした。)
ちなみにクラシックギターの姿勢や持ち方は、ずっと気にはなっていたのですが、大きく変えることができたのはアレクサンダー・テクニークを始めてからです。

もちろん、持ち方は、機能に影響します。
(ハシで細かいものを掴めるようになるので、焼き魚を食べるときなども、きれいに食べることができます)

機能をさらに良くするためには、その形だけでなく、持っているときに「どのように筋肉を使っているか」が影響します
形が良くても、それを筋肉を固めて作っているなら、改善はわずかしょう。
「どのように」ということについては、筋肉動作に対して持っているその人の考えが大きく影響します。
「持つ」または「掴む」ということについて、間違った考えをもっていませんか。
(同じことを、アレクサンダーは「呼吸」に対して言っていました。空気を取り入れるときに「息を吸い込まなければならない」という「間違った心的態度」が呼吸の妨げになる、とMSIに書いています。)
多くの人が、指の筋肉を使うためには(指だけでなく、それはどの筋肉にも言えるでしょう)、筋肉を縮めなくてはならない、と考えています。
その考えが障害になるのですが、それについては、Youtubeで、その使い方がうまいと思われる人たちの映像を見てみて下さい。
ほとんど使っている筋肉に余計な緊張が無いことが分るでしょう。
多くの人たちが、それを「力が抜けている」と表現するでしょうが、そう考えて自分で「力を抜こう」としてしまうと、脱力になってフニャフニャするだけで、うまくコントロールすることはできません。

ペンはハシをしっかり掴むために指を固めたり手を緊張させることが良くないことを誰もが知っていても、解決策が分らないので、ペンやハシを使わざるを得ない毎日の生活の中で、前の方法を続けざるをえません。
どうしたら指や手を柔軟にして、それを十分に維持したまた動作を行えるでしょうか。

考え方を変える一つの鍵は、筋肉の「伸張性収縮」(この言葉の意味は、「伸張性」は「伸びる」ことですが、次の「収縮」は実際に短くなるのではなくて、筋肉内で「力が出せるようになる」こと、と考えれば理解しやすい、でしょう)です。
ちなみに、その反対は、筋肉の「短縮性収縮」です。これは、筋肉は「縮むときに力を出す」という誰もが知っていることです(もう一つの「等尺性(アイソメトリック)収縮」がありますが、これは筋肉の「長さを変えないで力を出す」という意味です)。
始めて聞く人には、この「伸張性収縮」はとても分りずらいと思いますが、一口に言えば、「筋肉は、伸ばされると力を出す」ということです。鉛筆の場合で言えば、鉛筆を支えている指を「曲げる筋肉」(「屈筋」と言います)が、伸びるようにすると、指の力が出るということです(これは、楽器演奏を行う人にも有効です)。

これを考えるときは、何かを掴もうとしてそれに触れるときに、そこからさらに指を「屈曲」させるのではなくて、「触れたものによって指の筋肉が伸ばされるように」と考えながら掴んでみます。

「いつもそうしている。」という人もいるでしょうし、「全く新しい考え方だ」と感じる人もいるでしょう。
ペンでこの持ち方ができれば、その後の動きが変わってきます。

そして、この「伸張性収縮」を、指だけでなく、手、腕、胴体、と身体全体に渡ってそれが起きるように、調整します。
これはもちろんアレクサダー・テクニークがやろうとしていることですが、それをいろいろな活動で行うためには、自分の長年の癖に気づいて少しづつそれを取って行く必要があります。

そしてこれはまた、何かを「やろう」とすると、筋肉を縮めてしまうのでうまくいかない、 ということです。それをアレクサンダー・テクニーク用語で、ドゥイング [doing] な動きと言い、アレクサンダー・テクニークではノン・ドゥイングな動きを目指します。

今回は、掴む動作を考えましたが、次では字を書くという動きを考えてみます。


第9回の坂戸ワンデイ・ワークショップ「字を書くときの意識と動きを変える」では、鉛筆をこの「伸張性収縮」で持てるようににします。

参加希望の方は、http://yasuhiro-alex.jp/sakado_1day/ からお申し込みください。
各個人へのワークの時間を多く取りますので、定員は6名です。

「伸張性収縮」にしくみ
筋肉内にある「筋紡錘 (きんぼうすい)」というセンサーが引き起こします。
筋紡錘が「筋肉が伸びた」ことを感知して、その信号を脊髄に送り、脊髄から運動ニューロンを通して、筋肉に活動するようにという信号がでます。
これがあるために、私たちは、生活上の色々な動きを変な努力を行わずに楽に行えます。カップをテーブルの上に置くときのことを考えて下さい、テーブルに近づくに従って、カップは身体から遠くに行くので、より支えることが大変になるはずですが、「テーブルに近づくときに力がさらにっと必要だ」という人はいないはずです。そのときには、努力しようと思わなくても、筋肉が伸ばされることで、「伸張性収縮」が起こり、力が出るからです。
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