「頭を前へ上へ」は、アレクサンダー自身が生徒に考えるように言っていた基本的なディレクションの一つです。
私たちの身体には「頭を前へ上へ」と持ち上げてくれる筋肉はないので、このディレクションは「筋肉に行わせる」(彼はそれを「ドゥイング」と言いました)ことを言ってはいません。
これは、指示することで効率的な動きを邪魔する動きを起こさないようにする、ためのものです(この指示を「ドゥイング」さえしなければ、「インヒビション(望まない動きが起きないようにする)」の指示にもなります。)

しかし、それが起きるためには、どこかに「頭を前へ上へ」と行かせる仕組みがなくてはなりません。
わたしは、脊椎に24個ある椎間板がそれを行っていると思っています。
椎間板にはゴムのような弾性があるので、頭を下方向に引張る力が少なくなれば、跳ね返りの力を発揮することができます。
アレクサンダーから直接教えを受けた第一世代の有名な教師パトリック・マクドナルドは、著書「アレクサンダー・テクニークについてのわたしの考えAlexander technique as I see it」の中で、「インパルスが、脊椎に沿って流れる」と書いていますが、これは椎間板に縮めようとする力が少なくなれば、弾性による力を発揮することができる、ということではないでしょうか。

「頭が前へ上へ」と行かせるために

アレクサンダー・テクニークの基本と言えるこの「頭が前へ上へ」が実行できないのは、次の3つの大きな要因があります。
(1)この指示を思い出して、それを考え続けることができない(シンキングを続けられない)
(2)それを邪魔する身体の使い方をしている場所に気づいていない、か対処できていない
(3)その指示を考えるときのシンキングの質を変える必要がある

(1)はアレクサンダー・テクニークを学ぶときに最初に出会う課題です。実際の指導が無くても、本だけでその人の向上心に応じて良くしていくことができます。
(2)も丹念に調べて実験していく力があれば、独学で改善が可能ですが、教えてもらった方が遥かに短期間に進めることは確かです。
(3)がとても困難なのは、その人のそのときの感覚では、その「シンキングの新しい質」を最初は捉えることができないからです。よく言われているように「それがあることを分らないもの」をどうやって自分で習得できるというのでしょう(もちろんアレクサンダー自身は独力で見つけたのですから、できないわけではありません。ただそれはニュートンやアインシュタインが行ったことを他の人たちもできるはずだ、と言っているようなものです。彼らのような類いまれな能力と経験と、何かの運が必要です。)

このブログでは、(2)について少し書いて、次のブログで(3)について詳しく書きたいと思います。

「頭が前へ上へ」を邪魔する身体の癖

みなさは、ご自分の身体や頭を下に引張る力をどれくらい意識できていますか。
一人一人、本当にさまざまです。
頑張り性で、身体全体に引張りが起き過ぎていて頭を動きづらくしている人がいるし、脱力の部分が多くそこが動こうとしないためにいつもブレーキがかかっている人がいます。
それは、そのような身体全体だけでなく、
1)首の付近
2)腕や肩
3)腹部や背中
4)脚
などの部分で現れます。手や足やその指にさえそれがあります。
それに気づいて、対処していく必要がありますが、それは本当に一人一人が異なっている個人としての課題です。

つまり、「気づくこと」それからそれに「対処すること」が必要になります。
先週、第2世代のアレクサンダー教師の中でも有名なジョン・ニコラウス(キャリントンの学校を修了)のZoomクラスに出席したのですが、彼はペギー・ウィリアムズ(第1世代の教師)の言葉


自分の意識がどんな変化でも捉えることを許す [Do allow your consciousness to register any change]」


を紹介していました。
わたしたちは、そのように自分の感覚を再教育していく必要があります。

身体を下に引張る力を無くしていって、その引張りの力がある「しきい値」より少なくなると、身体と頭は急に上がり出します。
これは、かなり不思議な体験に感じことでしょう。
ただ、それが起こるためには、ときにはすぐに結果を求めようとせずに、地道に長い時間をかけることも必要になります(と書きましたが、ときどきはその状態が、このワークを始めたばかりの人にすぐに起きるときがあります。その場合でも、定着するためにはある程度の時間が必要です。)
アレクサンダーが言うように邪魔するものが無くなれば「正しいことは、自ずから現れる」ことを期待できるのです。

坂戸ワンデイ・ワークショップ

7月10日(土)のワンデイ・ワークショップ「頭が前へ上へを知る」では、1日かけて(最後のアクティビティの時間を除いて)全体で一緒に身体の習慣とシンキングについて探求して行き、一人一人が「頭が前へ上へ」の質を高めることができるようにします。
6人定員の小人数なので、個別のワークを多く受けることができます(まだ1人空きがあります)。
http://yasuhiro-alex.jp/sakado_1day/