前回の実験はいかがでしたでしょうか。
文字を見ながら、頭を小刻みに小さく左右に動かしても、文字はそれほどブレません。
眼球が、文字を見続けることができるように、空間の中で止まっているからです。

重要なことは、その眼球の回転の精密なコントロールは、頭が動いているときにだけ発揮されることです。
耳の奥にある頭の動きを感知する高精度のセンサーと、人が「文字を見よう」とする意図により精密な動きを行います。

 

人が身体を動かすとはどういうことか

【実験2】
頭は動かさずに、持っている本又は雑誌を、左右に小刻みに振ってみてください。

 

これを行うと、前回の実験とは異なり、全く文字としては読めなくなることが分ります。
「頭を小刻みに動かして、文字を見る」ときには、身体は頭の動きを常に感知する機能(耳の奥にあります)を使って、眼に関して言えば、その情報を使って、眼球の周りにある6つの筋肉をコントロールしています。

それはとても精密な制御機構です。
これによって、わたしたちが周りを見ているときに、カメラのピンボケ画像のようなボヤけた世界になることを防いでいるのでしょう。

さらに重要なことは、この「頭の位置を感知して」、「眼球を動かす」ときに、わたしたちは
  「頭の位置を感知しよう」
とか
  「眼球を動かそう」
という意図や努力は少しも持たないことです。
この複雑な機能について、人は意識的には考えていません。

それどころか、もし「もっと頭の位置を感知しなければならない」とか、「眼球をこのように動かそう」などと、意識的に考えたら、この機能は混乱します(試してみて下さい)。

また、この機能は始終使っているのに、疲れることはありません。
眼が疲れるのは、頑張って文字を読もうとすることで、顔の筋肉や眼球の周りの6個×1対の筋肉を酷使するからだといえます。
(電車に乗ったら、周りでスマホを見ている人を観察して見て下さい。
眉間に明らかな皺を作ったり、そうならないまでも、多くの人が眼の周辺を多くの人が緊張させている人がいます。)

これは、人が身体を動かすときに、本当は起こっている神秘的な内容です。
わたしたちは、自分の身体を意識的にコントロールしているつもりになっていますが、普通はそうではないのです。
これはとても人間の役に立つ機能ですが、悪くプログラムされてしまったときに、それを治すときの障害になります。

次に、そのような人の「思い」との関係を調べてみましょう。

人の意識しない意図

【実験3】
文字を見ようとする意図の強さをいろいろに変えて、頭を左右に振って文字の見え方を比べてみて下さい。

 

これは、実はかなり大変です。
見ようと思う気持ちを相当少なくしても、多くの人の場合で、見え方は変わらず、文字ははっきり見えることでしょう。

始めから読めないような小さな文字を見ていたら、顔を振ることで、「実験2」のようなことが起こるかもしれません。
このときは、頭が読むべきものだと認識していないからです。
一度、人の意識が読める文字として捉えてしまったら、この機能をなかなかオフできないことが分ります。

 

【実験4】
今度は、頭を動かして、自分の周囲を見回してみて下さい。

 

風景は流れて行くことでしょう。早く動かせば、それははっきりします。
ゆっくり動かすと、どこかに文字があれば(文字でなくても興味のあるものがあれば)、それはその部分だけ流れていかずに少し止まります。

わたしたちは、長年の訓練のおかげで、文字は特別に苦労しなくても眼はそれを捉えます。
(そうでなかったら、本屋で本を見つけることはかなり苦労がいることでしょう)

文字を捉えるということが、これほど自然になっている機能だとしたら、わたしたちが意識的に良く見ようとするときは、いつはもかなりやり過ぎになっているのかも知れません。
文字を良く見ようとするときに、眼球や、眼の周囲に力が入っていませんか。

 

アレクサンダー・テクニークで眼の機能を改善する

眼の余分な緊張をなくして、眼球が自然な動きを取り戻すようにすることが、眼を良くする最も基本的な対策です。
アレクサンダーは、1934年に行った「ベッドフォード体育大学でのレクチャー」の中で、「眼は、あなたがそれを一人にさせて、見させようとしないときに、あなたのために見ることを行ってくれます。」と言いました。

これは、疲れた目を目薬で休めるけれども(それはときどき必要ですが)、文字を見るときに自分がどのように見ているかを変えようとしないこととは、全く異なります。
もちろん視力の悪さをメガネでカバーすることとも異なります。

人は、身体が自然な機能を行おうとする前に、意識により無理をさせてしまって、緊張を作るために、自分が持っているはずの機能を発揮できなくなります。

それでは、その眼の緊張はどうやって取れば良いでしょうか。
直接的な「リラックスするように」という指示はほとんどの場合役に立ちません。
(楽器の演奏や、スポーツを教える先生が、生徒の緊張を見て、「リラックスするように」というようなものです。)

これについて、アレクサンダー・テクニークはとても具体的な方法を持っています。
それは余計な身体緊張があるときには、頭と首の関係にも緊張が現れていて、そこを縮めていることです。
自分の頭の動かし方に注意を払って指示を出しながら、そしてさらには、見ようとするときに「何を考えているか」を意識します。

それを変えることによって、直接にはリラックスを狙わずに、間接的にそれをもたらします。
このことは、「身体を全体的に適正に扱うことで、過度の緊張のない状態をもたらす。」とも言えます。

 

先週のクラスでは、細かい説明を行わなかったので、ここでは少し詳細に書いてみました。

 

【クラスで行った演習】
 先週の1時間半のクラスでは、多くの時間をかけて
 ・頭の動かし方に注意を払い、それが身体全体にどのように影響を与えるか。
 ・スマホを見るときに、腕をどのように使っているか、また眼でどのように画面を見ようとしているか。

の探求を行いました。
その両方について、8人の参加者の一人一人にワークを行っています。

 

【最終回の9月20日】
 ここで説明した内容をさらに掘り下げて、具体例と体験を通して見て行きます。
多くの方が、見え方が変わる体験を持てることでしょう。
連続講座ですが、最終回だけの参加もできますので、興味のある方はご参加下さい。
朝日カルチャー「眼の疲れを防ぐアレクサンダー・テクニーク」
(料金は、全体料金ではなく、1回分になります。)

朝日カルチャーで行った内容についての過去のブログ