「人が受け継いでいる最高のもの」

この一冊目の著書を、アレクサンダーはロンドンに渡って6年目の1910年10月、41歳のときに出版しました。
彼はそれまでに多くの小冊子を作っていましたが、書籍はこれが最初です。

1ページに21行という小型本で200ページの初版は、2,000部を印刷しました。
続編として、
翌年(1911年)3月に「人が受け継いでいる最高のもの:補遺」(48ページ)
を、さらに
その翌年(1912年)10月に「意識的コントロール」(49ページ)
を出しています。

アレクサンダーは、第一次大戦のときからアメリカでも教え始めていますが、2回目の訪問で、ジョン・デューイが生徒になりました。
そのデューイがアメリカでの新版を出すことを勧め、アレクサンダーはこの3冊を基に大幅に加筆変更を行いました。
それが現在の版の原型の1918年版です。

世界有数の哲学者デューイは、現在のやや大型の版で3ページに渡る紹介文を寄せていて、その中で
「アレクサンダー氏ほどに、この変化の意味と危険性と可能性を、明確にそして完全に理解している人は、誰もいないようにわたしには思えます。」
と称賛しています。
「この変化」とは文明化で生じた変化のことですが、第一次世界大戦(1914~18)を経験しそれまでのやり方に自信を失っていた世界にとって、この本は新しい可能性を示しましうた。

そのため、アメリカで良く売れましたが、驚くことにマリリン・モンローも読んでいて、その写真もあります。

この本の英文タイトルは、Man’s Supreme Inheritance なので、通称MSI(エム エス アイ)と呼ばれています。

2.「意識的なコントロール」という「人が受け継いでいる最高のもの」

人が今後進んで行くためには、「意識的なコントロール」が必要だということが、この本の主題です。
そして、人のその力こそが、本の題名になっている「人が受け継いでいる最高のもの」だとアレクサンダーは言っています。

「意識的なコントロール」は、彼の2冊目の著書のタイトルの一部にもなっている、彼にとってとても重要な考え方ですが、この1冊目の本の特徴は、なぜそれを考えるようになったかを良く書いていることです。
彼は、社会や教える中で見てきた、人が論理的に考えようとしないことで起こる数々の愚かさを挙げていて、彼は、それらを「潜在意識によるコントロール」でもたらされていると説明しています。
これらの言葉のアレクサンダー自身の定義を、具体例を通してこの本で読むことができます。

でも、それはどのようにアレクサンダー・テクニークで教えていることと結びつくのでしょうか。
彼はMSIの中で
「(アレクサンダー・テクニークを学ぶことで)この意識的なガイダンスとコントロールを生活の中で実際に使えば、それが人を論理性とつながらせてくれて、自分をうまく再調整するための「ミーンズ・ウェアバイ(手段)」を提供します。」
と書いています。

人が、生活の中で身体を使うことに知性を向けずに、知性を別なものと考えたことで、その身体の習慣からくる「潜在意識によるコントロール」に操られてしまっていることは、とても興味深いことです。

このことにとても感銘を受けたデューイは、「彼の意識的コントロールの理論は、完全に彼自身 テクニークの理論です。」と書いています。

3.「機構的に有利な姿勢」 と「拮抗的な活動」

(今まで「機械的に」とか「構造的に」と訳してきましたが、訳語を「機構的に」とすることにしました)

アレクサンダーは、この2つを彼のテクニークの中心的なものと考えていて、テクニークを表す用語として「プライマリ・コントロール」を使い出すまでは頻繁に使っていました。
例えば、「機構的に有利」という言葉はMSIの本文で検索をかけると27個見つかり、それは、パートⅠからパートⅢ(後に載せたMSIの目次を参照のこと)までのどこにも登場します。
最初にこの言葉が現れるパートⅠの2章には、
「リラクセーションが本当に意味するところは、造物主(自然)がいつもいくらかは緊張しているようにと意図した筋肉システムの部分が、適切な緊張状態にあり、造物主がいくらかリラッスしているようにと意図した部分は、リラックスしていることです。これは、わたしの別の書き物で、「機構的に有利な姿勢」と呼んだ姿勢をとることで、実際に容易に得ることができる状態です。」
という文があります。

現在では、「機構的に有利な姿勢」というと、モンキーというプロシージャだけのことを指すことが多いですが、MSIを読むとそうではないことが分ります。

4. 「呼吸のコントロール」と「運動感覚の再教育」

1910年版MSIは、3つの部分で構成されていて、「人が受けついでいる最高のもの」に加えて、以前の2つの小冊子が付録のような形で、そのまま収録されていました。
次の2つです。


(1)「呼吸の再教育の新しいメソッドの理論と実践」(1907年小冊子)

「ブリージング・マン(呼吸の人)」と呼ばれたアレクサンダーの呼吸の集大成と言えるもので、彼の呼吸についての基本的な考え方を見ることができます。

これは、MSIのその後の版にもそのまま収録されています。
(彼は、1907年以前にも呼吸についての小冊子をいくつか作っていました。それらや、スパイサー医師への反論として作った小冊子の呼吸に関する説明は、これとは異なっている部分が多く、興味深いものです)

(2)「運動感覚システムの再教育」(1908年小冊子)

「ブリージングマン(呼吸の人)」呼ばれていたアレクサンダーが、初めてこの小冊子で呼吸や声を扱わなくなり「思考」で運動を起こすことから書き始めながら、「インヒビション」や「ミーンズ・ウェアバイ」をここで初めて登場させています。

これは、1910年のMSIには一つのまとまった形で入っていますが、1918年版以降、主な部分が他のいくつかの章に分散した形で含められました。

5.1918年版MSIの目次

パートⅠ 人が受け継いでいる最高のもの
1.原始の状態から、現在の必要性が生じるまで(1910年)
2.未熟な対処法とその欠点(1910年)
3.潜在意識とインヒビション(1910年)
4.意識的なコントロール(1910年)
5.意識的なコントロールを使う(新)
6.思考と身体の習慣(1910年)
7.人類の行動様式と子供の訓練(1910年)
8.進化のレベルとその1914年の危機への影響(新)

パートⅡ 意識的なガイダンスとコントロール
1.主張の概要(1912年)
2.議論(1912年)
3.意識的なガイダンスとコントロールのプロセス(1912年)
4.意識的なガイダンスとコントロールの実践(新)
5.意識的なガイダンスとコントロール:不安と再教育(新)
6.一人一人の過ちと幻想(新)
7.注釈と実例(1911年)

パートⅢ 呼吸の再教育を行う新しい手法についての理論と実践
                     (1910年) 1907年小冊子と同じ

1.呼吸の再教育についての理論
2.呼吸の再教育の理論と実践に関して避けるべき間違いと覚えておくべき事実3.呼吸の再教育の実践

※カッコ内は、その章が最初に載ったものを示しています
1910年  「人が受け継いでいる最高のもの」
1911年  「人が受け継いでいる最高のもの:補遺」
1912年  「意識的コントロール」
新    1918年版で初めて加わった内容

ただしパートⅢを除き、初出のものから大きく変わった章があります。

 

8月10日(土)池袋レクチャー

8月10日(土)の池袋レクチャー第4回「アレクサンダーの著作からテクニークが何かを考える」では、アレクササンダーの小冊子と彼のレクチャー、4冊の本の内容を追い、教えている用語や内容がどう変わっていくかなども見て行きます。
このブログで簡単に取り上げた、「機構的に有利な姿勢」と「拮抗的な引っ張り」についても考えてみます。

 

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