人の身体のしなやかさ

人の身体は、本来いろいろな部分がとても柔軟に動くのですが、大人になるにつれてそれを失います。
でも、それには個人差がかなりあります。
周りに柔軟性の無い大人ばかりを見ている人は、その状態が普通だという思い込みを作っているので、柔軟な人を見ると驚くことでしょう。
でもそれは、幼児の動きを見ればある程度見ることができます。

柔軟性の無さは、どこかの筋肉が緩み過ぎになっているときにも、緊張状態が慢性化しているときにも起こります。
日々の活動に筋肉の伸縮性を使わなくなっているからですが、それは身体各部についてのその人の思いがそうさせています。
でも、普通は自分がいつもやっている動きしか知らないのですから、他になりようがありません。

小さいうちは自分の身体については余り考えないので、脳を含めた神経システムはうまく調整してくれます。
でも、年齢を重ねるにつれて、いろいろな情報が入ってきて(周りの人の動き方の悪い癖を見たり、先生からの不適切な指示を受けたり、自分で片寄った思い込みを持ったりなど)、自然な動きを失っていきます。
(アレクサンダーは、人が模倣をするときに、良い動き(余り特徴がない)よりも、変な動きを模倣してしまうと書いています(CCCI第三部2章「模倣」)。わたしたちの脳は、何か変わったものに注目するようにできているからです。)

人が自分の身体を教育できることは、他の動物と異なる特性で良いのですが、問題はわたしたちは自分の動きについて正しい教育を受けることがないことです。
そうでなければ、現代の大人たちの動きや姿勢が、これほど悪くならないはずです。

デスクワークを行うときにも、そのような思いが作用して、自分の身体に無理のある使い方をさせることで、肩こりや腰痛を起こし、呼吸を浅くして、集中力と持続力を妨げます。

それでも、どの人の身体にも柔軟に動く潜在力があることは、アレクサンダー教師の助けにより、2~3分で姿勢や、動きが変わることを見ることができることから分かります。
このときアレクサンダー教師が重要視するのは、生徒さんが、頭を身体方向に押し付けないようにすることです。
人は、ほとんどの動き(イスから立ち上がる瞬間や、立っていて歩き出す瞬間にも)でそうする癖をつけてしまっているので、脊椎の柔軟性と自由さを失ってしまいます。
このため生徒さんは、最初に「頭が動いて」と自分に指示する必要があります。

 

今回も、イスから立ったり、座ったり、歩いたりする動きにアレクサンダー・テクニークを使うことをまず個別に深めてから、次の内容を行いました。

胸椎と肋骨のしなやかさ

肋骨は、鉄の檻のように動かないものと思っている人がいますが、かなりの可動性を持っています。
なぜなら、胸椎(きょうつい、脊椎の胸の部分で、肋骨が繋がっている部分)には、椎骨が12個あり、その間には椎間板(ついかんばんん)もあるので、動くようにできているからです。
胸椎と肋骨が繋がる部分は、全て関節なのでそこにも可動性があります。

もちろん大事な肺と心臓を守るためにある程度の堅牢性もあるのですが、それは、身体の前面の真ん中にある胸骨(きょうこつ)に肋骨がつながって、肋骨全体が閉じた形になることで作りだしています。

でも、胸の部分は人が思っている以上に可動性があり、それを動かないものと思い込むと胴体全体のしなやかさが失われます。

座った姿勢でのローリングダウン

胸椎の動きには、側屈や捩りもありますが、今回のクラスでは前後方向の動きを試してもらいました。

脊椎に沿って椎骨の一番上から前傾させて、脊椎全体がロール(回転)させる動きをローリング・ダウンと言いますが、これを行ってもらいました。

デスクワークの状況と同じように座って行ってもらいました。
最初に自分で行い、次にわたしがワークを行なって、どう異なるかを体験してもらいました。

特に気が付いて欲しかったのは、良く動くためには、動きが起こる場所だけではなく、身体全体の使い方が影響していることです。
アレクサンダー・テクニークでは、特に頭の動きがそれを邪魔していないかが何よりも鍵になりますが、他の身体部分が行っている妨げに気づくことも重要です。
その妨げを取ることで、身体全体が協調的に動くようになるからです。

特にローリング・ダウンの動きで重要なのは、背中の筋肉が頭の動きについて行き、伸びることができるかどうかです。
今回の参加者も、この動きが起こることでより深くローリング・ダウンをできることを体験しました。
自分の動きのレパートリーに無かった動きができることに気づきます。

さらに、戻ってくるときの動きも重要です。
戻る途中で、どこかの関節を使って一気に戻そうとせずに、下から順番に頸椎の一番上に来るところまで意識できれば、この動きとともに、身体の前面と後面の筋肉にストレッチが起きます。
終わった後は、明らかに座り姿勢が変わることを他の参加は見ることができます。

このしなやかさはデスクワークを楽にしてくれるものです。

仕事をする態勢になるときの動き

次に、座った姿勢から、仕事をする態勢になるときの動きを、観察してもらいました。
3~4人1組になって、一人がその動きを3度行い、その後で他の人がその人の動きの真似をます。
その後で、最初に動きを行った人に、自分の動きで気付いたことを話してもらいました。

今回は、机やパソコンを実際に使わなかったことと、周りの人から見られている状態だったので、極度に身体を押し下げる方は少なかったのですが、それでもいろいろに身体を固めていることが分かります。

それは、その前に行ったローリング・ダウンの動きとは異なります。

仕事をする態勢になるときに浅いローリング・ダウンで始めてみて、仕事の途中で必要がなければ、戻って見たりすることを行ってはどうでしょうか。
股間節からの動きと、ローリングダウンの動きをわずかに使うことで、身体のしなやかさを保ち続けることができます。

ただこれは、身体を固め続けることを「集中」だと考えている普通の考え方の逆なので、その考えも変える必要がでてきます。

デスクワークを行うときの肩を押し下げようとする癖

思いの力

2人1組になって、同じ方向を向いて前後に立ち、後ろの人が前の人の両方の上腕を持って、腕を上方向に持ち上げてもらいました。
前の人は次のことを行います。

1)最初に、「決して持ち上げさせない」と思う。
前の人がこう思うだけで、後ろの人は腕を持ちあげることは全くできません。とても強い力が生じることを感じます。

2)「持ち上がっても良くて、その動きに協力する」と思う(脱力とは違います)。
前の人の肩周りの柔軟性に応じてさの動きの軽さはさまざまですが、後ろの人は腕を持ち上げることができます。
肩周りをいつも固めている人は、ほとんど上がらない場合あります。

3)「持ち上げさせない」という思いの強さを変えてみる。
前の人は、これをいろいろに変えて、後ろの人に持ち上げてもらいます。
前の人は、これをわずかに思うだけでも、実際は強い力が起きていることを体験します。

デスクワークでどのような思いをも持って作業しているか

その後で、前の人にはイスに座り、パソコンや書き物をしているときの姿勢を取ってもらいました(書き物をしているときは、実際に指を動かさずに休んでいる姿勢でも良い)。
そして、後ろの人に、腕を持ち上げることができるかどうかを試してもらいました。

こうすると多くの人の腕は動かないのですが、実はそのような作業でも関節の自由さを持ちながら行えます。
クラスでは、それをデモンストレーションし、他に、どんなに指や手に力を入れていても、肩やひじの関節は自由に動くことを見てもらいました。

 

発展、次回の内容

今回の内容は、時間があれば、肩周りや腕や指の使い方について、もっとワークすることもできます。
それは一人一人特徴が表れているので、ワークには時間が必要です。
探求したい方は、月2回の池袋クラス(少人数)がありますので、良かったらご参加ください。

最終回の次回は、脚の使い方を取り上げます。
股関節周りと脚に緊張のあるとき、脚が緩み過ぎになっているとき、それらに適切な張り(トーン)を持たせることを学び、それがデスクワークにどう影響するかを見ます。

この回だけでも参加できますのが、興味がある方は朝日カルチャーまでお申込み下さい。

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