前回書いたように、わたしたちの座り方には、習慣によるいろいろな特性が表れています。
他の人の座り方を見れば、人によって、身体のある部分が働き過ぎで良く動くのに、他の部分は少しも動かないことを見て取れるでしょう。
いろいろな人を見れば違いの大きさに驚きますが、わたしたちはそれが当然だと思っているので、毎日見ていても普通は気づかないものです。
そのため、自分の座り方が他の人とどう違っているかについて考えることもありません。
ぜひ、この機会に気を配ってみてください。
(他の人の座り方の真似をすると、違いに気づけます。)

身体全体が望ましい状態で働いているときに、アレクサンダーは「協調状態(コーディネーション)が良い」といいました。
どうしたら、身体全体を協調的に使って、座ってデスクワークをすることができるでしょうか。
「身体全体を使うように」と言われたら、身体各部に力を入れて頑張らせてしまうかもしれませんが、もちろんそうではありません。

身体全体が協調的に動くことは、結果として起こる状態であって、直接的に狙っても得られないものです。
アレクサンダー・テクニークはそれを起こすための手段です。

アレクサンダー・テクニークで身体を全体として使う

アレクサンダー・テクニークは、自分の頭の動きに注意を向けて、それを適正なものに変えることで身体全体の協調状態を良くします。
人の動きの中で、頭の動きが何よりも重要だということが、アレクサンダーが発見したことでした。

朝日カルチャーの今回のクラスでも、イスから立って、歩き、また座る、という動きで最初にテクニークを使ってもらいました。
(イスから立つことについては、以前のブログで書いていますのでご覧ください。)

この動きは直接デスクワークとは関係ない、と思われるかもしれませんが、身体の使い方はその人が行うどの動きにも共通しているので、動きの起こし方をテクニークを使って別のものにすることで他に影響を与えます。
体験した方は、いつもの動きを変えたことで、座ったときの状態が変わったことがわかります。
身体全体のコーディネーションが変わるからです。

初めて参加される方々はアレクサンダー・テクニークを使った経験がないので、最初はやや時間がかかるときがあります。
継続の方々は、初回の方を見て以前の自分がどうであったかを思い出し、同じような傾向の習慣を持っている人を見つけ、ご自分にもそれが根強いものだということを再認識したことでしょう。
他の人の状態の変化を見て、理解を深めていくことが、長期的に起こる自分の変化を助けます。
知識は得るだけでなく、何度も繰り返すことで定着します。

姿勢が呼吸に影響を与える

座ってデスクワークを行うときに深い呼吸ができれば、血液の循環が良くなり、頭の働きと自分全体の機能が上がることは理解できることでしょう。

呼吸は直接的に変えるものではなく、呼吸を邪魔をしている自分の使い方を変えることで 間接的に良いものに作り上げる必要があります。
先ほどの立つ、歩く、座るという簡単な動きで、身体のいつもは弛緩している所は良いトーン(張り)を持つようになり、緊張している所はその緊張がなくなります。

その結果、呼吸が深くなることを体験してもらいましたが、それは主に肋骨が良く動き始めることで分かります。
大事なことは、肋骨を動かそうと意図してそうなったわけでなく、身体の使い方が変わったことで、それが自然に起こることです。

 

アレクサンダー・テクニークと「集中」

アレクサンダーは普段わたしたちが言っているような集中を、集中とはみなしませんでした。
それは単に意識を狭めているだけで、ときには自己陶酔で自己催眠のようになってしまい、呼吸が浅くなることもあることを指摘しました。

また身体を固めた姿勢を取ることが、集中するための方法だと勘違いすることも多いと思います。
わたしは教員時代に、あるときに生徒の様子を見ていて、生徒が真剣に授業を受けようとしている姿勢が実はノートを取るためだけで、余り頭で考えていないことが見えたときがありました。

アレクサンダーから長期に渡ってレッスンを受けた有名な哲学者のジョン・デューイは、レッスンを受けたことで最も役に立ったことは、そのような狭い集中から自分を変えることができたことだと言っています。

アレクサンダーは3冊目の本の中で「集中」について書いていますので、興味のある方はご覧ください。―>CCCI「第三部 三章「集中と指示を与え続けること」

次回8月17日(金)のクラス

次回は脊椎が柔軟に動くことと、デスクワークを行うときに腕と肩甲骨の動きがどう影響するかを体験を通して学びます。
2回目からの参加もできますので興味がある方はぜひご参加下さい。

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