一昨日は、新宿の朝日カルチチャーセンターの3ヵ月講座「朗読・読み聞かせ力が向上するアレクサンダー・テクニーク」の3回目(最終回)でした。
(1)ウォーミング・アップ、アレクサンダー・テクニークの復習
最初に、ウォーミングアップとして、イスから立つことと、その後に歩くことを行ってもらいました。
このような日常生活の動きに、アレクサンダー・テクニークを取り入れていくことは、日々の生活を健康に過ごすために役に立ちます。
特に、1日の終わりは疲れているので、多くの人が身体を縮めています。
ワークを受けながら動きを行うと、その人自身は楽に動けることを感じ、他の参加者は、その人の身体が広がるのを見ます。
そのような体験をすることで、自分の姿勢の癖に徐々に気づいて行きます。
(2)前回の復習
前回は、朗読をするときに、聞き手のことを考え、そして、自分の声がどの方向に向かうか考えてもらいました。
でもわたしたちは、読んでいる文を一生懸命見ようとしたり、声が出るかの不安や心配を持ってしまい、それらの意識がなくなり、自分を内側に縮めてしまいます。
また、多くの人が、読もうとする原稿を持つ手や腕に力が入り、立ち姿勢で脚に力を入ています。
これらの身体の緊張は全て、聞き手に意識を向けることの妨げになります。
すぐには変えられなくても、これら傾向があることに気づくことは重要です。
何度も気づいていれば、やがては変化が起こるからです。
クラスでは、前回の復習として、3人1組になってアレクサンダー・テクニークを使いながら、宮沢賢治の「まなづるとダァリヤ」を順番に読んでもらいました。
そのときには、特に、自分のユース(身体の使い方)と共に、聞き手に言葉を一つ一つ届けることに注意してもらいました。
そのときに、次のことが起こっていたので、それらを防止してもらいました。
・声をだすときに、顔を引き下げようとしてしまう(脊椎を縮めてしまう)
・言葉を一つ一つ伝えるときに、顔を動かして、それを作ってしまう
・フレーズの語尾を下げてしまい、そのとき、身体も下方向に下げてしまう
(3)考えていることの影響
人が考えを変えると、他の人にそれとわかるほどの変化が起こることは驚くほどです。
でも、多くの人がそれほど意識していません。
それでも多くの人は、会議に出席して、誰かの主張を聞いたときに、横の人が「どうもそれに反対しているらしい」と感じた経験があることでしょう。
それは、外に見える何かが態度に現れているからです。本人は、そう感じとられていると気づかないことが多いことでしょう。
クラスでは2つのグループに別れて、片方のグループが次のことを行っている間、別のグループは観察してもらいました。
【頭の中の考えを変えることが、どう歩き方に影響するか】
①最初は、普通に歩いてもらいます
②次に、想像の上で小学校1年生に戻って、そのときにあった楽しい出来事を頭の中で思い浮かべてもらいます
(できるだけ具体的なシーンを思い出してみる。場所、季節、時間、人、など)
③歩き方を特に変えようとはせずに、頭の中の想像を保ったまま、身体のやりたいように任せて、もう一度歩いてもらいます。
想像の仕方は、個人個人で異なるし、生じた気分の変化が身体に表れやすい人と、そうでない人がいるので、その影響もさまざまです。でも、どの参加者にも多かれ少なかれ変化がでました。
軽やかに歩くようになったり、かなり早く歩くようになったりする方がいらっしゃいましたが、今回の参加者では、女性の方が多く変化が出たのは、興味深かったです。
過去には、男性でも大きく変わった人がいらっしゃいました。
(4)話の中の情景に考えること
考えていることが、歩くことに影響するならば、当然、声にも影響します。
次に朗読で試してもらいました。
行ってもらったことの幾つかを紹介します。
①文の内容の状況を、読む前に明確にする
場所(まわりの景色)・季節、・時間 などについて
できだけ具体的に「ありありと」、思い描いてもらいます。
これは、声を出すときに、脳の視覚野を活動させることになります。
②フレーズごとに間をおいて、そのフレーズで読んだ内容を、自分の頭の中に思い浮かべる時間をとる
この時間が少なすぎると、聞いている人が頭の中でその光景を再現する時間が取れなくなってしまいます。
普通は、急いでしまって、十分な間を取ることができません。変だと思うくらい長く時間を取って、頭の中に再構成する時間をとってみることを、ときどき試してもらいました。
読み手が不自然長いと感じても、聞き手が奇妙に感じることはほとんどありません。
できればその間をあけるときに、「時間を長く取る」と考えるのではなく、聞く人の頭の中に起こっていることとコミュニケ―トする時間として使うと、より有効に聞き手に伝わります。
③言葉を自動的に発してしまうことに気づく。
頭の中で、考えを持たなくなったり、違うことを考えてしまうことは良く起こります。
すると、口が自動的に動いてしまい、言葉が意味を持たずに流れていきます。
これは聞き手に負担になり、聞いていて疲れると感じさせてます。
他にも幾つかありますが、これらのことに注意して、自分に余計な緊張をさせず、下方向への圧力をかけずに話すことができれば、その表現力は大きく変わります。
クラスでは、参加者には、最初はこれらをそれほど考えずに読んでもらい、次に、考えて読んでもらって、その差を体験してもらいました。
読む方も違いが分かるのですが、聞いている人の方が、その差を感じ取りました。
これは、いつも起こることで、やっている方の人は、変化を感じにくいものです。
聞く側で、その差を感じ取る体験を重ねることで、自分が読んでいるときの体験の意味を理解できるようになります。
また、ここでは、省きますが、状況のセッティングの仕方など、各個人に合わせて提案を行っています。
このように朗読・読み聞かせを行う意味
この読み方は、声色を意識的に変えるというような方法とは、異なっています。
そのような作為的な方法は、聞き手が本当にその世界に入っていくときに邪魔になることが多いものです。
また、自分の中に悲しいとか、嬉しいとかの感情を作り、それを伝えることでもありません。
それは聞き手に対する押し付けになってしまいます。
この方法は、聞き手を本の世界に誘うための材料を揃えます。
その材料は、また読んでいる人自身にも新しい感情を起こさせるものです。
毎回、読むために何か新しいものを見つけることでしょう。
楽器の演奏と似ていますが、練習して完璧に読むのではなく、予想しなかったものが現れてくることを楽しむ創造的な活動になります。
この方法を使ってもらうと、朗読や読み聞かせをやったことが無い人が、とても楽しいと感じます。
経験の無い人の朗読でも、聞く人が何か味があると感じるものなります。
今回のクラスは、一人一人の方の変化をじっくり検討する時間を十分には取れませんでしたが、
参加者は、本を読むことに色々な質の違いがあることの可能性を、感じたことと思います。
機会がありましたら、ぜひ実際に体験してみてください。
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