ゴッダード・ビンクリーGoddard Binkley(1920-1987)は、アレクサンダーから直接に個レッスンを2年間受け、その後教師養成の訓練を受けてアレクサンダー教師になりました。
多くの生徒を育てたというわけではありませんが、アレクサンダーから受けたレッスンを記録した彼の日記は、彼の言葉を直接知ることができるとても重要な資料です。
ビンクリーについて
アレクサンダーの個人レッスンは、1回30分でした。
その中で、アレクサンダーは、生徒の能力と、レッスンの進み具合に応じて、話す内容、要求する内容を変えたことでしょう。
そのため、アレクサンダーが話した言葉を見る前に、ビンクリーはどのような人かを、知っておく必要があります。
1920年生まれのゴッダード・ビンクリーは、アメリカのシカゴ近郊で育ち、12歳のときから腰痛を抱え、それが余りもひどくなったので数年後には入院して治療を受けるほどでした。
彼は、医学の勉強をしようとカリフォルニアのスタンフォード大学に進みますが、すぐに幻滅します。
しばらくいろいろ試した後で、ニューヨーク州のハミルトン・カレッジで入学し学びましたが、同時にこのときに6週間の物理集中コースを受けたり、「一般意味論」をコージブスキー自身から直接学んだりしています。
入学の2年後に海軍に従軍し、第二次世界大戦の広島・長崎の原爆投下(1945年)時には、日本近海にいました。
除隊後、大学院で政治社会学を学びます。
1949年(彼は29歳)にアレクサンダーの本を読み、その後レッスンをニューヨークでフィロメナ・バーPhilomene Barrから1年以上受けました。
フィロメナは、アレクサンダーの弟のA.R.アレクサンダーが米で教えていたときん、教師トレーニングを受けた女性です。
ビンクリーは、1951年7月に教師トレーニングを受けるつもりでロンドンに渡りましたが、情勢が安定しないことから、すぐに教師養成コースに入らずに、2年の間アレクサンダーから個人レッスンを受けました。
アレクサンダーは、当時は既に、教師養成コースをウォルター・キャリントンに任せていました。
そのため、すぐに教師養成コースを始めていたら、アレクサンダーから直接レッスンは受けれなかったので、ビンクリーはその巡り合せは良かったと書いています。
ビンクリーは、2年の個人レッスンの後にすぐに教師養成トレーニングを開始し、4年かけて修了した後はアメリカに戻りました。1959年からニューヨークで教えました(最初は米で多くのアレクサンダー教師を育てた有名なJudy Leibowitzと一緒に教えました)が、十分な収入が得られずに、高校教師として化学を8年ほど教えています。
その後アレクサンダー教師に専念し、1971年から1981年までシカゴで教え、教師養成も行いました。
1971年に、パリに行き教師養成を行い、1987年に67歳で亡くなりました。
彼は3回結婚し、最初の2回は離婚に終わりました。2回目の結婚では子供を4人設けています。
ビンクリーの著書「Expanding Self」について
「Expanding Self(広がる自分)」は、アレクサンダーからレッスンを受けた1951年7月から1953年5月にかけての彼の日記を中心に書かれています。
他には、レッスンが始まるまでの彼の履歴についてと、アレクサンダーとのレッスン後の教師養成コースを受けているときの日記が載っています。
1955年に亡くなったアレクサンダー(1869年生れ)は、ビンクリーに個人レッスンを行ったときには80歳を越えていました。
この本は、現在残っているアレクサンダーのレッスンの記録として最晩年のもので、彼が最後に何を考え、直接どのような言葉を使っていたかを知るための貴重な資料です。
実は、アレクサンダーの晩年の個人レッスンでは余り話さなかったそうです。
でも、ビンクリーは教師養成を受けようと思うほどに志が高かったことと、大学院を終えるほどの知的レベルを持っていたので、話す内容も他の個人レッスンとは違っていたことでしょう。
レッスンの中で、彼はビンクリーに「何でも質問するように」と言っています。
この本には、有名なアレクサンサンダー教師ワォルター・キャリントンが序文を寄せています。
その中で、彼はこの本の内容をトレーニーに読んで聞かせることがあると書いています。
(でもウォルターは、ビンクリーの本は重要ではあるけれども、アレクサンダー自身の著作の代わりにはならず、アレクサンダーの本こそ、注意深く読む必要があるとも書いています。)
またビンクリーは、長くアレクサンダーの側にいたアレクサンダー教師のマーガレット・ゴールディーに原稿の各ページを見てもらい、特にアレクサンダーの言葉について修正してもらったそうです。
書籍を残さず、孤高とも思える活動をしていたゴールディーのチェックが入っていることも、この本の価値を高めています。
ビンクリーは、彼が亡くなる2年前の1985年に、日記の内容を中心に本の形に仕上げていますが、「Expanding Self」が出版されたのは、彼の死後5年以上経った1993年でした。
「Expanding Self」は、Mouritzで購入入することができます。索引を入れても178ページで、そう長くない本です。
次のブログで、この本の内容を紹介させていただきます。