今回は本の紹介です。
原書で本文が150ページほどのこの本は、見やすく描かれたで参考になる図が多い上に、字もやや大きく読みやすい本です。
その読みやすさにも関わらず、ダイモンは、ハーバード大で教育学の博士号を習得している知識人なので末尾に多くの参考文献も上げてあるし、フスラーの有名な本の一部を本文で取り上げているなど、高い知識の裏付けがあることも特徴です。
(先月末にベルリンで行われたアレクサンダー・インターナショナル・コングレスで、ダイモンは「アレクサンダー・サイエンス」のテーマで全体講演を行ったデビット・アンダーソンの紹介者として壇上に上がっていました。わたしは行かずにビデオで見ていただけですが、彼が現れたのでびっくりしました。2回前のアイルランドでのコングレスでは、私は彼2回連続のクラスに出席していて、最後に1つ質問もさせてもらいました。そのクラスにはサラ・バーカー先生も参加していて、偶然出会ったので2人で並んで聞きました。)
この本とアレクサンダー・テクニークの関係
この本の序文は、次の文で始まっています。
「発声の仕組みは身体全体が関わる一つの大きなシステム(系)として作られている、と理解することで、無理なく自然に声を出せるように、とこの本を書きました。声の特定の機能の改善の方法を示すだけでなく、それらの機能が身体全体の働きに影響を受けていることを説明しています。」
この文は、この本の内容を良く表していると思います。
この文の後半の「身体全体の働きに影響を受けている」と書いていますが、本文で書いているその部分はアレクサンダー・テクニーク――つまり頭の働きを主とした身体全体の働き――の内容です。つまりこの本の一つの柱は、「アレクサンダー・テクニークから見た声」になります。
それは、後半でアレクサンダー・テクニークで「セミ・スーパイン」とわれている体勢を使ってのエクササイズが書いてあったり、「メカニカル・アドバンテージのある姿勢」がでてくることでも分ります。
「ウィスパード・アー」についても、そのときの声帯の特殊な位置や、それがどう役に立つかを詳しく説明しています。
各章の概要
この本は次の章立てになっています。
1 発声の原則
2 呼 吸
3 喉 頭
4 喉頭にある吊り下げ筋
5 支えの問題
6 声 区
7 歌手の喉
8 声をプレイスする
9 基本的な声の間違った使い方を防止する
10 無理のない発声のための5つの要素
11 支えの要素と声を出すこと
12 純粋な歌の声を作る
13 声とトータルな設計
4章までは発声のしくみを深入りすることなく、必要最小限に完結にまとめています。この部分を読むことで、わたしは発声のしくみについて、自分が間違って理解している部分を修正できました。
特に2章「呼吸」では、「横隔膜と肋骨の動き」と、「身体の全体の筋肉系との関係」が書いてあるし、3章と4章の喉頭(こうとう)を扱った部分では、声帯自身と喉頭の詳しい構造とその働きが分りやすく書いてあり、声を出すときに、喉頭を取り囲んでいる吊り下げ筋などを意識できるようなります。
5章の「支え」は、特に衝撃的と言えるもので、「声の支えは腹部の筋肉が作っている」、という多くの人の考えがいかに間違っているかを分りやすく書いています。
それ以降の章でも、共鳴を起こすのは空間なので、空間のない場所では共鳴が起こらない、とか、「声をプレイスする(あてる)」ことが実際にはどういう効果を生んでいるのか、などの説明は誰もが興味深いと感じるでしょう。
後半に書いているエクササイズは、簡単に実行できる実用的なものだと思います。