「呼吸」と言う言葉は、実はいろいろなものを指していて、それぞれ異なります。
大きく分けて
(a)立っていたり、座っていたり、横になっていたりなど静かにしているときの呼吸、または、歩くなどの負担の少ない運動での呼吸
(b)何かのパワーを出すなど、身体への負担があるときの呼吸(スポーツや、身体的負担のある仕事)
(c) 声や管楽器の演奏など、空気圧を直接使うときの呼吸
というように分類しても良いでしょう。
(a)は、第5回の坂戸ワンデイ「呼吸の仕組みとATの呼吸法」で学ぶ内容で、アレクサンダー・テクニークを使って身体の使い方が良くなることで、姿勢などが徐々に改善して行くことで良くなります。
(b)と(c)は、(a)がその基本になりますが、息を吸うことについては共通な点が多くあります。
(a)と大きく異なるのは、息を吐くときで、空気の圧力(息の支え)を維持する必要がでてきます。
また(c)の中で、声を出すときには無声音と有声音ではかなり異なります。管楽器の演奏は、無声音での息の出し方と同じになります。
ウィスパード・アー
アレクサンダーが、声の呼吸のために作った練習に「ウィスパード・アー」と呼ばれるものがあります。ささやき声で「アー」という音を出します。
この「アー」は無声音なので、声をつくるときに起こる悪い癖が起こることを防ぐことができます。
この音により息の支え(圧力)を保ちながら息を吐くことを学びますが、そのときの「アー」の音は、パイプから空気が漏れるような音にする必要があります(つまり、力の無い音でもありません)。
声(吐く息)の「支え」を作るものは何か?
それでは、その圧力をもたらし、うまくコントロールできるようにするものは何でしょうか。
巷の本にはいろいろなことが書いてあり、横隔膜や腹部の筋肉、または骨盤底筋などもでてきます。
それらについてはアレクサンダー教師のテッド・ダイモンは「Your Body, Your Voice」
で、面白いことを次のように書いています。
「横隔膜は、息を支えることができません。横隔膜は、息を吸うときの筋肉だからです。腹部の筋肉も、空気を押し出すためのものですが、これもそれが働くことで、息を早く出すことができるだけです。」
つまり、これらは「支え」を直接作ることはない、と言っているのです。
これは、みなさんの考えと一致していますか?
「支え」が空気圧を高くすることではなく、空気の流れを少なくして、コントロールすることだとしたら、それは全身の活動を扱うアレクサンダー・テクニークの分野になります。
そう考えると、第1世代教師のトレヴィリアンの日記に、
座り仕事の多い人たちの健康には何が重要かと聞かれて、F.M.は躊躇せずに「ウィスパード・アーで、特にイスの上でやることだ。」と言った。
と書いてあることや、同じ第1世代教師で最も多くの教師を養成したウォルター・キャリントンがアレクサンダーのもとで教え始めたときに、ある生徒が他の教師から
「個人レッスンを30回も受けていながら、「ウィスパード・アー」を1回も教わっていない」
ことに驚いたと書いていることも、うなずけます。
第6回坂戸ワンデイ「発声のしくみとATの発声法」(6月4日(土))は、これらや喉頭の仕組みを資料などで理解し、「ウィスパード・アー」の練習に生かします。
参加者それぞれの声の使い方(普通の話し声でも、朗読でも、歌でも)にも個別にワークを行います。
1日かけて作っていくことで、自分の声が変わることを体験できるでしょう。
坂戸ワンデイ・ワークショップ