テンセグリティの3回目です。引き続き、アレクサンダー・テクニークと動きとの関連で考えます。

(4)張り(トーン)を変える要因

アレクサンダー・テクニークを使うことで、身体全体の張り(トーン)に作用できますが、他にも無限に思えるほどいろいろな要因があります。

1)姿勢が与える影響

姿勢のバランスの悪さは、そのアンバランスを支える力が必要になるので、身体というテンセグリティ構造に、張り(トーン)の高い場所を作りだします。
駅のホームで、他の人の立ち方を見て、どこに力が入っているだろうか考えてみてください。

反対に、腕組みをして壁に寄りかかっている人は、トーンのない場所を作り出しています。
トーンのない場所を作ると、リラックスして身体に良いような感じがしますが、長時間にわたると身体を疲れさせます。
フカフカのソファで、同じ姿勢でいるとすぐに疲れます。

右の写真のような背中を丸めた姿勢では、お腹の前側が緩み、トーンがなくなっています。

ただし、姿勢を形と見た場合には同じように見えても、身体全体のトーンの分布はその人の自分の使い方によって、異なります。
どんな姿勢でも、アレクサンダー・テクニークをうまく使うことにより、身体全体のトーンバランスをより均等にすることができます。

【実験】
自分の周りで座っている人を良く観察して、その姿勢を真似してみてください。
(手足や頭、胴体の位置だけでなく、「質感」を合わせてみましょう。)
そうすることで、他の人の姿勢は、どこに力が入っていて、どこが緩んでいるか知ることができます。
その後で、自分のいつもの姿勢に戻り、自分の姿勢にはどのような特徴があるかを観察してみましょう。

2)運動が与える影響

【実験】
今みなさんがイスに座っているなら、しばらく自分の様子を観察してみてください。
姿勢はどうなっていますか。
脚や腰、腹部、胸の辺り,腕はどんな感じがしますか。
座り心地はどうですか。
次に立ち上がって歩いて、1、2分してからもう一度イスに座ります。

今度はどのように感じますか。
座ったばかりには、前とは違って感じることでしょう。
徐々に、座り心地が変わることも観察します。
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運動した後には、身体全体の張り(トーン)が増しています。
少しずつ、普段の慣れた座り心地に変わって行きますが、それは一人一人異なります。
長時間座ることが多くてそのトーンに慣れた人は、すぐに運動のトーンは失われますが、
運動を多くしていて、そのトーンがいつもの状態になっている人は、それをほとんど失いません。
会社で座り仕事に慣れた人が、自分のグループとは、異なったタイプの人たちの中に入ると、座り方が異なることをはっきり感じることでしょう。
そのようなときには、静止しているところと、動いているところを観察してみてください。

また、球技や武道の試合など、相手のあるゲームを行うときや、外側にターゲットがあるときは、意識が外側に向き、身体全体のトーンが上がります。
サッカー選手が、自チームの選手の位置や相手の選手の位置を把握しながらプレイしている状態を見ると、それを感じます。
外部の世界に興味があるときは、トーンがあり活き活きとしていますが、生きる意欲がなくなると、トーンは弱くなるものです。

3)感情や思いが与える影響

自分のトーンに眼を向けて観察を続けると、いろいろな要因が影響することに気づきます。
気分とトーンは、切り離せないものなので、気分を観察することも良いでしょう。
いつ、どういう状況で自分のトーンがなくなるかに気付いてください。
自分の身体を、鋼鉄製のロボットのようなガッチリしたものではなく、ゴムのような伸び縮みする材質でできていて「いつも拡がったり収縮したりしている」と考えることで、微妙な変化もとらえることができます。

・休みの日の朝は、仕事のある日ほど良く動けない(逆の人もいることでしょう)
・仕事の締切が近いと、能率があがる
・低気圧が来ると、調子が悪い
・あの人と仕事を一緒にすると、気持ちよくできる

(5)動きの中のトーン

下の写真の2つのテンセグリティモデルに、同じ重さをかけてみます。
左は、ゴムのトーンを弱くしたテンセグリティです。



左のトーンの弱いモデルでは、しなやかさはありますが、力がないことがわかります。
「しなやかさ(可動性)」と「力」は相反しています。

 

ゴムやバネは、どのくらい伸びたかによって、そのトーンが変わりますが、筋肉は、長さが変わらなくても(アイソメトリック)力を発揮することができます。
この点で身体は、上記のようなテンセグリティ構造とは、まったく異なっています。

運動、演奏、日常生活の動きの何であっても、「しなやかさ」が必要なときと、「力」が必要なときで、そのトーンを変える必要があります。
でも多くの人が動きを行う前や途中で、手や腕や脚などの身体の場所や形を決めて作ってしまいます。
そこで力を入れてトーンを高めるために、動きに必要なしなやかさを失います。
また、その力が入っている状態で、最終位置まで持っていくために、余計に大きな力が必要になります。

ギタリストの左手のギターの押さえ方を見れば、一流のプレイヤーは、ほとんど力が入っていないようにみえます。学び始めたばかりの人は、とても力を入れている人がほとんどです。
一流ピアニストの指は、まるで彼らの弾いているピアノの鍵盤がとても軽いものであるかのように、動きます。

剣道の師範の、竹刀の動きの素早さからも観察できます。

「しなやかさ」のトーンから、「力」のトーンにどう変えるかは多くの練習を経てつかむものなのでしょう。
それが洗練されれば、最後の力は、最小限ですみます。

フィギャアスケートの選手が、難しいジャンプを跳ぶ前の状態を見ると、失敗するときには身体のどこかにぎこちなさが見られます。
トーンの均一性がなくなったことの現れです。

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