ファシア [fascia] を「筋膜」と訳すことで、「筋肉だけを覆っている膜」という印象を与えていて、それが混乱を招くことを、レクチャーで指摘してきました。
例えば個々の筋肉を覆う膜は「筋外膜 [epimysium]」 と呼ばれますが、多くの人は「筋膜」と言われると、この筋外膜を想像するのではないでしょうか。

英語の「fascia」はカタカナで「ファシア」と訳す方が混乱が少ないと思うのですが、訳書等で用いられる用語は、そうなっていないので厄介です。
TVや雑誌等で最近「ファシア」という用語を聞いたり、見たりすることはあっても、その定義も実はいろいろで異なったものを指していたりします。
(それほどまだこの新しい分野は混乱しているということです)
例えば、「大腿筋膜」は英語では、fascia lata で、その名前には「fascia」が使われています。この訳語が「大腿ファシア」だったら良かったのにと思います。

日本語の名前の混乱は色々な所にあって、例えば腸骨(骨盤の外側)と脛骨を結ぶ長い帯を「腸脛靭帯」と呼んで「靭帯」いう言葉を充てていますが、これは靭帯ではありません。実際にこの腸脛靭帯は英語では、iliotibial band(腸骨と脛骨を結ぶ帯)で、この単語の並びには「靭帯 [ligament]」という単語は入っていません。
ステッコの「ファシア系の機能解剖アトラス」の本の写真を見ると、この「腸脛靭帯」が大腿ファシア(大腿筋膜)がその部分で厚くなっていることを、明確に示しています。

今までの解剖学は、ファシアを考えてこなかったために、実際の人体構造とは異なった印象を与えてきたし、それは私たちが自分の動きについて考えるときも悪く作用しています。
骨を筋肉だけの知識だけだと動きは悪くなる方が多いのです(だからアレクサンダー・テクニークが役に立つのですが)。

ファシアを含めた「筋―骨格―ファシア」系を全体的に学ぶ適切な本が今まで無かったのですが(トーマス・マイヤースの「アナトミー・トレイン」の本は、多くの人がファシアだと思っています。でも、この本は最初に全体について述べていてファシアも扱っていますが、基本的には、身体全体を覆うファシアは考えていなくて、トムが見つけた身体内部の筋肉などの繋がりの幾つかの線を線路に見立てて示しています)、その基礎と全貌を理解できる本をようやく見つけました。

それが先ほど紹介した、ステッコの「ファシア系の機能解剖アトラス」です。この本だけが、人は皮膚の下に全体を覆っている2層のファシアがあることと、その重要性を実際の写真を多く使って明確に示しています。
また、それら2つのファシアが筋肉の動きとどう関わっているかや、ファシアの中などにある感覚受容器、さらに固有感覚との関係についても触れています。
この本をゆっくり学んでいくレクチャーを企画しました。時間をかけてゆっくりとファシアの知識を自分のものにして役立てたいと思う方はぜひご参加ください。

詳細については下記のページをご覧ください。
http://yasuhiro-alex.jp/stecco_online_seminar/