ようやく、このアレクサンダー4冊目の本の訳が終わりました。

以前に書いたように、おそらく1000時間以上をかかっています。
アレクサンダーの長い文と、繰り返しの多さにときどき辟易することはあっても、内容は興味深いもので、これだけ時間をかけても、彼の観察と洞察を考えることに飽きることはありませんでした。

前の3冊とは異なり、この本が述べている理論的な結論(「使い方が機能の仕方に影響する」など)には目新しさはありません。それらは前の本に既に書いてあります。
そして、それらが余りにも何度も本の中に現れるために、余り考えずに読むと「同じことしか書いていない」という印象を持ちます。

そのため、この本の価値はその結論ではなく、それらが、生きている中で実際に起こっていることとどう結びついているか、の観察と言えそうです。
実際的な手順は書いていないのに(それについては、アレクサンダーは3冊目の本「自分の使い方」に書いたと考えていました)、実際的な本です。
現実の場面を考えながら、じっくり読むことで多くを得ることができるでしょう。

人が変ることとチェア・ワーク

アレクサンダーの手紙を読むと、彼は、この4冊目の本「いつも人に影響するもの The Universal Constant in Living」(旧題 「生きる上で変わらないもの」)のタイトルを決めるときに、かなり迷っています。
1940年1月に、長年助手を務めていて当時南アフリカで教えていたアイリーニ・タスカーへの手紙で、彼はこの本を「わたしは、『既知から未知へを考えるThinking From the Known to Unknown』と呼ぼうと思う」と書いています。

そのタイトルがとても興味深いのは、この本が述べている重要な内容が、人が成長して変わるためには、未知のものに出会う必要がある、ということだからです。

これを多くの観点から書いていますが、例えば第5章パート2の最初の部分の各段落の要約を記してみましょう。

イスに座る、立つ、の動きを使って小さな刺激でインヒビションの機会を与える――心配と緊張により、生徒は信頼できない感覚のガイドで「正しく」行おうとする――「正しい」という感覚が不具合を作るのなら、「正しい」は間違っている――「間違って感じるもの」(「未知」)を行うことだけが正しく行う唯一の方法――集中したり動きを思い描くことは、筋肉緊張と自己催眠を生む――身体各部と習慣的な感覚が変るためには、変化はゆっくりとしたプロセスで行う必要がある...

これから分ることは、アレクサンダーが晩年に主に教えていたチェア・ワークは、生徒が未知のものに出会うためのものだったことです。
みなさんは、その理解を持っていましたか?

このUCLで、彼が40年以上教えた経験からの、成熟した考えを読んでみて下さい。

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参考までに

・今回の新訳は、BodyChanceのブックコースで使われているテキストとは全く異なる訳です(ブックコースの訳は、鈴木優子さんが苦労されたものです)。
ブックコースのテキストには無かった付録の文も、全て載っています。
この中でも特にオルダス・ハクスリーの文は有名で、この文によりテクニークに新しく興味を持つ人が増えたそうです。

・アレクサンダー晩年の個人レッスンについては、その内容を書いたゴッダード・ビンクリーの日記「エクスパンディグ・セルフ」が、アレクサンダーがレッスンで使っていた言葉を知ることができる点で参考になります。彼は2年余りを、直接アレクサンダーからチェア・ワークを受け続け、そのときのことをかなり詳細に記録しました。
ビンクリーと「エクスパンディング・セルフ」についてはブログで書いています。
(「エクスパンディング・セルフ」の日記の部分について、A4で70頁ほどの試訳を作ってあります。わたしの「リーディング・クラブ」に入り、規約を守って頂くことで読むことができます(割高ですが)。関心を持たれた方は、yasuhiro.alex@gmail.comまでご連絡下さい。詳しい内容を案内させて頂きます。リーディング・クラブでは、その他にもアレクサンダー・テクニーク関連の興味深い文献を読むことができます。クラブといっても、とくに活動があるわけではありません。)