「ファシア」についての第2回レクチャーが迫って来たので、このところその内容をどのように構成しようかとずっと考えています。
知識と実際の応用を組み合わせたものにしたいと思っているので、ストーリー性と後で復習できる情報を入れて作っている配布資料は、既に20ページになりました。

前回のメルマガとブログで「張力ネットワークと脚の動き」について書いたので、今回はもう一つの柱の「ファシアがどのように感覚受容を行っていて、それがわたしたちの動きにどう影響しているか」についてその一部を書きたいと思います。

人の身体がどのように感覚を処理して、動きに結びつけるか

ファシアの感覚器官を調べていたら、感覚全体(固有感覚と呼ばれるものも含めて)についてと、それが筋肉を動かす仕組みとどう関係するかについて、知る必要があると思いました。
多くの本が出ていて、とても詳細な研究を行われていますが、それらはとても難解に感じます(それでもまだ分らない所がたくさんあるのですから、身体の仕組みは本当に複雑にできています)。
でも、それほど深い知識を理解しなくても、全体像を持つことだけでも役に立ちそうです。

どういう力がかかっているか(圧力の大きさだけでなく、その変化の速さを身体は感知します)や、どの位伸びているかを知るための感覚受容器は「機械受容器」と呼ばれます。光や化学成分などの受容器と区別するためです。
多くの機械受容器の信号は、温度や、痛みなどの信号とも同じく、「感覚ニューロン」を介してまず脊髄に入ります。
機械受容器の中でも、わたしたちの動きに最も大きく関係しているのは、筋肉の中にあって筋肉の長さについての信号を送る「筋紡錘(きんぼうすい)」ですが、その筋紡錘からの「感覚ニューロン」の配線(「軸索」と言います)は、脊髄で次の3つに分かれます。
  1)脳に向かう配線
  2)脊髄の中の神経回路(それを構成するニューロンを「介在ニューロン」と言います)への配線。
  (これがあるかために、ニワトリは、頭を切り落とされても走り回ることができます。脊髄の中には小さな脳があるのです、)
  3)筋肉を動かすニューロン(「運動ニューロン」)への直接配線(途中に別のニューロンを介さないので「単シナプス結合」と言います)。

1)は、ホムンクルスと呼ばれるもので表されることもある、脳の「感覚野」につながり、わたしたちの「固有感覚」に大きく関係します。(固有感覚は、身体各部の位置がどうなっていて、どう動いているかの感覚です。この感覚が良いことが、動きの良い、悪いにつながり、もちろん、スポーツや楽器演奏、さまざまな技巧的な技にも作用します。)

反射について

3)は、とても興味深いしくみで、これが「伸張反射(ストレッチ・リフレクス)」を起こします。
筋紡錘が伸ばされたという信号が、直接に脊髄内「運動ニューロン」に作用して、その「運動ニューロン」の配線が筋肉に行っているために、筋肉は力を出します。 (入力には、脳や他からのものもあるので、いつも筋肉が働くわけではありません。)
そのため、「伸張反射」のしくみは、わたしたちが知っている「脚気(かっけ)」の検査のための「膝蓋反射」(小槌で、膝の下を叩くと、下腿が持ち上がる)だけに起こるものではない、基本的な仕組みです。

アレクサンダーから直接教えを受けたF.P.ジョーンズは、アレクサンダー・テクニークを使うことで、とても身体が楽に動くのは、「反射(リフレクス)」の作用が働いているからだと考えました。
「反射」で起こる動きには、頑張って動きを起こす「努力」がいらないからです。
(わたしたちが動くときに、筋肉が「短縮性収縮」(筋肉に力を入れて動かそうとするときの働き)よりも「伸縮性収縮」(筋肉が受動的に伸ばされて力を出すときの働き)の方が、大きな力が出せるのは、このしくみのためだと思われます。)

ファシアには2億5千個の感覚受容器がある

筋紡錘は筋肉の機械受容器ですが、ファシアには仕組みの単純なとても多くの機械受容器があることが、近年明かにされています。
ファシア研究の第一人者シュライプは、人の身体のファシアのネットワークにある感覚受容器の数は、推定で2.5億個あると言っています。
とくに胸腰ファシアや、支帯と呼ばれる関節周りのファシアに多く、それらの信号を脳はいつも受け取っているのです。
わたしたちが、数億というセンサーをいつも働かせながら動いているのは、とても驚くべきしくみだと思いませんか。数個からせいぜいで数百個のロボットのセンサーと比べれば、人がとても繊細な動き(特に鍛え上げた人たちは)を、行えることが分ります。

それら受容器の機能の仕方にも、頭の動きが主要な影響を及ぼします。アレクサンダーの発見の素晴らしさがここにもあります。

ファシア第2回レクチャー

ファシアのレクチャー第2回では、胴体から脚にかけてのファシアの構造を扱います。
それが、どうなっているかを理解し、体験を行うことで、脚の動きについて異なる見方ができるようになるでしょう。

第2回の日程が、次のように決まりましたので、関心がある方はぜひご参加下さい。
池袋11月23日(月、祝)http://yasuhiro-alex.jp/ikebukuro-lecture/
梅田12月4日(金)、6日(日)http://yasuhiro-alex.jp/kansai-ws/
(ファシアとの関連で、ふくらはぎのむくみや、ふくらはぎが第二の心臓であること、なども取り上げます)