ファシアは、40年位前(1980年頃)までは、研究テーマとして大きく取り上げられことはなかったそうです。
現在ファシアと呼んでいるものの個々については、かなり以前から知られてはいましたが、それまでの主流は、筋肉と骨格(スケルトン)の構成(「筋―骨格」系)を考えることでした。
解剖学のテキストの筋肉と骨の構成図にあるようなものです。
みなさんも、自分の動きを考えるときには、「筋―骨格」系で考えるのではないでしょうか。

シュライプらが編集した「ファシア」という本には、
「実際の身体では、筋肉はその力の全てを、腱を通して骨に加えているわけではない。筋肉の収縮による力(張力)は、ファシアのシートにも及んでいる。」
と書いています。

身体全体の力の微妙な調整は、身体全体に張り巡らされたファシアのネットワークの、その力のバランス状態から起こると考えると、自分の動きの質が変わることでしょう。
アレクサンダーが、頭の動きについてと、さらには足の使い方を変えることで、自分全体の使い方を変えたように、変化を起こすためには考え(理解)を変えることが必要です。

もちろん、「筋―骨格」系の個々の筋肉についての情報も必要です。
ただ、実際の解剖でそれを作り出すためには、覆っているものを取り除き、糊でゆるく付着しているようなものを無理に剥がすようにする必要があるのです。
それら取り除いているものが作っているしくみは、生きている人間の「動きの全体性」には欠かせません。それが、日常生活の動きはもちろん、ヨガやスポーツ、楽器の演奏、声、施術の動き、に影響します。

ファシア・コングレスとその成果としてのテキスト「ファシア」

第1回の国際ファシア・リサーチ・コングレス(FRC Fascia Research Congress)が2007年、2009年に行われ、2012年からは3年おきに開催されています。fasciacongress.org
シュライプらは、2007年と2009年のコングレスの内容などをもとに、ファシアを全体的に学べるテキストを作りました。それが前述の「ファシア――人体の張力ネットワーク」です。
この本は、2段組で550頁以上の厚い本です。
第1部は概論(182頁) 第2部は臨床応用(294頁) 第3部は研究(43頁)
に分かれています。
この第1部を読むことで、ファシアについての概要を知ることができます。

専門書を和訳で読む難しさ

 シュライプらの本は、幸いにも和訳が出版されています。しかし、この和訳を読むことは相当に難関です。
 今回、「池袋レクチャー」に備えて、50時間以上のウェッブのレクチャーの他にもいくつかの書籍をあたっています。その主なものは、この「ファシア」(原書+amazonの「試し読み」の30頁ほど)や、トム・マイヤーズの「アナトミー・トレイン」(原書と和訳)です。
どちらの本も、和訳だけで読むことは、かなり大変です。

このような訳書のいくつかを最初からじっくり読もうとすると、わたしは多くの場合で挫折してしまうのですが、今回その理由がはっきり分りました。
1つは、医学用語の難しさです。英文の医学用語は、それほど難しくはないのですが、それに対応する和訳の医学用語はとても難解です。まるで用語を難しくして、権威を保とうしてでもしているかのようです。
もう一つは誤訳と訳文の固さです。これは、訳している医学関係の人たちが、翻訳に慣れていないことと、翻訳の仕事は報酬に見合わないので時間をかけていないことから、ある程度仕方がありあません。
どちらの本も、和訳を見て混乱を感じる所を、原書で見ると明快に説明が行われていることが何度もありました。
特に「ファシア」は、和訳を読めば読むほど、頭が混乱してきます。そのため結局は、原書を読み、専門用語のチェック用に和訳を読むことになりました。
(もちろん、本にもよります。和訳が丁寧になされていて、じっくり読めるものもあります。)

ファシアで扱われているテーマ

この「ファシア」の本の第一部のパート2には、次の論文が収められています。2.1情報伝達器官としてのファシア
2.2.固有感覚
2.3 ファシアの受容器と、感情、自己認識の複雑な関係
2.4 感覚器官としての胸腰ファシア
2.5 全身の情報伝達システムとしてのファシア

また、パート3はファシアを通した身体を通る「力の伝達」についての6つの章があります (3.4はアナトミー・トレインについてです)。

さらに、わたしが受講したWebinarには、次のテーマもありました。
・ファシアとスポーツトレーニング
・ファシアと自律神経系

このように、今まで、筋肉で考えてきたものが、実は相当部分でファシアが重要な役割を果たしていた、と理解されてきているようです。

8月22日からの池袋レクチャー

3回シリーズの池袋レクチャーで、ファシアの基本を知り、全体像を掴み、それを実際の身体の動きに結びつけて考えます。
基本的な専門用語(「結合組織」や、「コラーゲン」、「線維芽細胞」など)についても深く理解できます。

関心ある方は、こちらのページをご覧ください
コロナの影響もあるので、人数が集まらない場合には、別形態の開催を考えています。
8月22日に出席を希望する方は、明日(8月5日)中に申し込みをお願いします。
(22日以外で、出席を希望する方は、そのように備考にお書きください。)