今回は参加者がお一人で、既にアレクサンダー・テクニークの経験が長く、過去の先生ワークショップにも参加している方だったので、参加者に特化した内容になりました。

今回でてきた三つの点について簡単に書いてみます。

1.身体の使い方の習慣的な癖に気づく

ほぼ全ての人が、立っているときや座っているとき、歩いているときに身体のエネルギーを無駄に使っているのですが、それは習慣になっているため、気づくことはほぼありません。
特に「上体を後ろに反らして、骨盤を前に突き出す」癖は、8割以上の人がそうなっていて、ひどくなると、疲れ易くなり、精神的な面でも影響が出ます。

今回は特に、その癖が腕の使い方に影響することを見ました。
肩の位置がやや後方に行き、下がっていることと、腕を下方向に引き下げる傾向があるために、胸の辺りが固まって動きづらい状態を起こします。
この状態が習慣になると、頭の動きを変えることの妨げになります。

初めに異なる動きができることを、実体験をしてもらいました。
でも、その新しい使い方はなかなか定着しません。
アレクサンダーが著書に書いている通り、誰もが身体の動きに色々な思い込みがあるので、それと異なるものは間違って感じるからです。
新しい使い方は、腕の動きが楽になり、歩くスピードが上がるのに、慣れないので元に戻したくなるのです。
前の使い方に戻ると、それが身体に負担がかかることを実体験するのですが、それでも普通はいつのまにか戻そうとしてしまいます。
それが長年に渡って培ってきた習慣の力です。

それに対処するためには、自分の動きを注意深く観察し、元に戻ろうとする瞬間をとらえるようにすることと、それをしながら新しい動きを、繰り返し体験する必要があります。
人の感覚はすぐには変わらないですが、回数を重ねていくうちに徐々に変わってきて、新しい動きがやがては普通に思えるまでになります。
今回も新しい使い方を自分で再現できるようにするために、いくつかの方法を提案しました。
時間がかかることを理解した上で、それを使いながら、継続的に取り組むことで習慣を変えることができます。

2.声の出し方

声に関する身体の使い方にはいろいろな要因がありますが、最も簡単に観察できることは、頭を後ろに引き下げてしまうことです。
これは、アレクサンダーがテクニークを見つけて行く過程で、自分の声の出し方に最初に観察したことです。

他の人が話しているときに、これが起きていないかどうかを見てみて下さい。
ほとんど誰もが、何らかの形で行っていることがわかるでしょう。

それが、声に影響することは、最初は気づかないかもしれませんが、観察をしていると、声は伝わらないし、身体に対しては脊椎を縮めるように力をかけていることが分かります。
特に、発音しにくい音とか、内容を強調したいと思うときに、これが起こります。
その頭を後ろに引くことをやめるだけで、いままでよりも聞きやすい声になります。

ただこれは、朗読のように何かを読み続けるときは、比較的容易に気づけて止めることができるのですが、雑談など他の場面では、内容に夢中になってしまうとなかなか気づけません。

先生として生徒に話をするときにも、いろいろな場面のパターンがあり、それに一生懸命になってしまうと頭の動きに注意を向けることができなくなってしまします。
動きのパターンの一つ一つについて、頭を後ろに引いていないかどうかを、見て行く必要があります。

アレクサンダー・テクニークを学ぶことは、このような気づきを増していくことで、変化を起こすプロセスを学ぶことです。

3.今置かれている自分の周りの状況や、自分の状態にどう向き合うか

アレクサンダーは、現代人にとって日々行っていることに意識的になる能力が重要だ、と著書の中でいつも強調していました。
原始の時代の変化が少ない環境からずっと使ってきた試行錯誤によるゆっくりと時間をかけた適応では、現代の目まぐるしく変わる環境の変化に対応するためには充分でなく、人は自分の活動に意識的になる必要があると考えていたのです。

学校も、時代の変化による学校環境の変化の他に、生徒の質の変化や、生徒が必要とするものの変化により常に変わっていると言えます。

また、先生に限らず、わたしたちはこの時代に生きる特殊性があることでしょう。
例えば、今までは定年まで駆け抜ければ、それほど後のことを考えないで良かったのですが、定年後も人生の重要な一部になってきました。
終身雇用制も崩れてきたし、安定ということが少なくなってきて、それには価値観(教育に対して何が重要かの価値観も含めて)も含まれるように見えます。
年齢を重ねることで自分の精神的な構造が変わっていくことに対しても、それに対応していく必要が前にも増して出てきました。
わたしたちが感じたり行ったりすることには、何らかの理由があり、それは今まで生きてきたその人の体験が積み重なったものの表れです
それは、実は起こる必要があることのようにも思えます。

一言で言えば、生徒もわたしたち自身も複雑になってきたということです。

自分の変化や周りの変化を見るときに、つい今までの経験の延長上で見てしまい、自分に対する批判が起きて「こうすべきでない」という思いが出てきたりします。
新しい状況に対応するためには、批判や不安にとらわれることを少なくして、出来るだけその状況が何なのかを見る必要があります。

アレクサンダー・テクニークはそのような批判や不安にすぐに反応しないこと、そして意識的になるとはどういうことかを教えますが、それが変化に対応して成長するために役立ちます。
このプロセスを先生が使うことで、先生の振る舞いに変化が生まれ、それは生徒にも性急に対応しないように良い影響を与えることでしょう。

次回、冬休みのWSは、2019年1月5日(土)、6日(日)に行います。

【参加者アンケートより】
定期的に身体のあり方を整えておくことの重要性を痛感しました。ただ在る、その在り方で、自分も楽に、相手にも何らかの不快感を与えずにすむ、という初歩的かつ重要なことがこれからの仕事の仕方に大きく影響していくことのように思います。
自分の授業を見直すヒントがありました。色々な立場や考え方でアドバイスが変わるものだと思いますが、アレクサンダー的な視点は他では得られないものなので、やはりとても面白かったです。
(Y.F.さん)