(2)「プロシージャ」ワークか「アクティビティ」ワークか

ワークアレクサンダー・テクニークの教え方には2つの大きな潮流があります。

1)「プロシージャ」を使う方法

これは伝統的な教え方で、チェア・ワークをワークの中心にして、モンキー、ハンズ・オン・バッック・オブ・ザ・チェアー、
セミスパイン(ライング・ダウン)、ウィスパード・アーなどとの決まった内容を学びます。
クラスで行うそれらの活動は、今では「プロシージャ」と呼ばれます。
(アレクサンダーの当時は、そうは呼ばずに、個々の名前で呼んでいました。)

STAT(スタットSociety of Teachers of the Alexander Technique)という世界組織があり、「プロシージャ」派の先生たちは
大半がこの組織に属しています。

通常は、個人レッスンで教えます。

これはアレクサンダー自身が彼のテクニークを教えた方法ですが、彼は生徒に、最初は短期間に30回のレッスンを
受けることを要求しました。
1週間に5回のレッスンを3~4週間続け(Walter Carrington 「Personally Speaking」より)、その後は徐々に
減らしていって、30回の後に続ける場合は定期的に(例えば週1回)通うというようでした。

2)「アクティビティ」を使う方法

もう一つは、教師養成コースの第1期の生徒でアメリカからロンドンまで学びに行った
マージョリー・バーストーの系統です。

マージョリー・バーストーは、トレーニングを修了してアメリカに帰ってからも、アメリカに来ていた
F.M.アレクサンダーの弟のA.R.と一緒に教えたりしていました。
その後しばらくしてから、グループワークを行う独自の教え方を発展させました。

「アクティビティ」派では、日常生活の動きや、仕事、演奏、演技、武道やスポーツなどの動きを
直接に使いながら、学んで行きます。
クラスで行うそれら実際の活動を「アクティビティ」と呼んでいます。
具体的には、歩く、パソコンで仕事をする、楽器を演奏する、歌う、人前で話す、本を読む、家事をする、
などです。

この方法では、自分の体験だけでなく、他の人の動きの観察からも多くを学びます。

回数が少なくてすむ代わりに、自分と他人の観察による気づきが重要です。
自分の毎日の様子を観察し、このワークをどう自分の活動に使うかを考えながら、探求したい動きを
クラスに持って来ます。

3)2つの学び方の違い

F.M.アレクサンダーとマージョリー・バーストーという2人の天才が作りあげた方法なので、どちらが
より良いという判断はできないでしょう。

アレクサンダーは亡くなる直前まで教えていましたが、いつもレッスンの予約は一杯でした。
ロンドンやニューヨークのトップクラスの人たちに評価されていたのです。

全ての方法と同じように、方法ではなく先生の力量が大きいと言えます。

既に説明したように、形の上での大きな違いは、
1)「プロシージャ」と「アクティビティ」のどちらを使うか
2)個人レッスンかグループレッスンか
3)レッスンの頻度
です。

「プロシージャ」派では、日常生活やパーフォーマンスに使うことは、本人に任されています
(現在では、「アクティビティ」を補助的に行う先生も増えています)。
基本的な動きの中で、コーディネーションが良くなれば、他のことにも応用できると考えています。

でも、日常生活に使うことはとても重要だとも考えていて、マージョリー・バーローは生徒に、
日常生活で使うように一回目のレッスンから言っていたそうです。

「アクティビティ」で言えば、アレクサンダー自身も、彼の3冊目の本「自分の使い方」には
「ゴルファー」の章と「吃音」で、「アクティビティ」といえる内容を書いています。
「アクティビティ」派では、自分の関心の強いことにテクニークを使う探求をすれば、
より強い動機づけが持てて、学びが主体的になると考えています。
(アレクサンダー・テクニークはセラピーではなく、学びなので、主体的か、受け身かは
大きく成果に影響します。)

また、アクティビティを行うときに、その活動に対する考えが、コーディネーションを悪くする
大きな要因になることは、至るところに見分けられます。
例えば、演奏家の演奏に対する考え方や、人前で話す人の緊張への怖れ、などです。

それらをアクティビティの中で、コーディネーションと一緒に見ていき、全体として扱うことは
とても大きな部分です。

「プロシージャ」派は「実験室的」で、「アクティビティ」派は「実際的」と言えるでしょう。

学ぶ内容(学び方ではなく)の特徴を要約すれば
プロシージャ派―――長所 基本的な動きの中のコーディネーション
アクティビティ派―――長所 実際の活動の中のコーディネーション
ということになるでしょうか。

4)コーディネーションについての考え方

コーディネーション(協調状態)についての見方も、流派によって違います。

「プロシージャ」派でさえも、プロシージャを行うときのコーディネーションをどう指導するか
の意見はさまざまです。

その例を挙げましょう。
1986年に、アレクサンダーの先生たちが集まるコングレスの第1回がニューヨークで行われました。
そのときに、第1世代の有名な教師パトリック・マクドナルドは怒って、マージョリー・バーローに、
「他の先生が教えていることはナンセンスだ」と言って、ほとんど帰ろうとしたそうです。
彼には、他の先生たちが「頭を前へ、上へ」と行かせているように教えているように、見えなかった
のだそうです。
(「An Examined Life   Marjory Barlow and the Alexander Technique」Trevor Allan Davies より)

5)このワークを教えること

F.M.アレクサンダーは、チェアワークを中心に教えました。
その背景には、初期のころ「呼吸の人」と呼ばれていたように、呼吸への影響を必ず見ていたこと、
それが、身体のディレクション(エネルギーの流れ)の改善につながり、健康の改善に役立つ、
という点を見てたという点があります。。
単にイスに座ったり、立ったりすることが楽にできるだけではなかったわけです。

途方もないアレクサンダーの実体験が、その背後にあって、一見単純に思えることには、大きな意味があったのです。

これが手法だけでは、判断できないところです。
教えるときには何でもそうですが、若い先生がベテランの先生にならって教えて、
形だけ同じよう見えても、その重みが違うことは良く起こることです。

このワークを教える先生は、「プロシージャ」派であっても、実生活で使うことを、
「アクティビティ」派であっても、基本的な動きの質やコーディネーションの良し悪しを見
れる必要があるでしょう。

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