「ウィスパード・アー(ささやき声のアー)」がいつ始まったかは不明ですが、アレクサンダーが書いた物で始めて出てくるのは、1906年の小冊子からです。
アレクサンダーの姪で有名なアレクサンダー教師だったマージョリー・バーローは
「アレクサンダーは、ウィスパード・アーをたくさんやるように勧めたの。ウィスパード・アーをやると、体の中で変わらない細胞は一つもなくて、それは細胞の食べ物が酸素だからだ、と言っていたわ。」
と言ったそうです。

アレクサンダーから教師養成コースの修了証書を直接もらった最後のトレーニーのペギー・ウィリアムズも、アレクサンダーから「ウィスパード・アー」を教えてもらった、と言っています。
つまり晩年まで約40年というとても長期に渡って教えていたことになります。

「ウィスパード・アー」の重要性については、一冊目の本MSIにも書いているし、2冊目のCCCには、「ウィスパード・アー」の音を出すときに、
 ・身体の全般的な使い方と、口の開け方、唇や軟口蓋の使い方
 ・発声のメカニズムに緊張がないこと
 ・息をすすり込むことがないこと
 ・喉頭を過度に押し潰さないこと
が必要だと書いています、



しかし、CCCにとても詳しく手順を説明した「ハンズ・オン・バック・オブ・ザ・チェア」と違って、「ウィスパード・アー」の手順をアレクサンダーが本に書いたことはありませんでした。
第一世代教師で「ウィスパード・アー」をアレクサンダーがどう教えていたかを書いているのは、F.P.ジョーンズの「フリーダム・トゥ・チェンジ」です。
また、「シンク・モア・ドゥ・レス」は1章を充てて、マージョリー・バーローが説明した内容を詳しく書いています。
(どちらも私家版の訳がありますので、関心のある方はinfo@yasuhiro-alex.jpまでご連絡下さい。)

ジョーンズが「フリーダム・トゥ・チェンジ」に、次のように書いているのは興味深いところです。

アレクサンダー兄弟は、彼らのテクニークにはエクササイズはない、と言っていましたが、「ウィスパード・アー」は例外にしていました。これが「インヒビション(抑制)」と、「ノン・エンド・ゲイニング」を主目的にしたエクササイズだからです。

つまり「エクササイズ」ではあるけれど、考えずに機械的に頑張って「アー」を出すエクササイズとは違うということです。
「シンク・モア・ドゥ・レス」が書いているように、「声を出そうとするときに、その前に息を吸うことをインヒビションできるようになる」必要があるのです。
歌うときや管楽器の演奏家は、ほぼ誰もが息を吸い込もうとしていますが、それを「呼吸の人」と呼ばれていたアレクサンダーは、間違った心的態度」だとMSIに書いています。

セオドーラ・ダイモンの「身体と声」はそれらについてのアレクサンダーの考えを図を用いて詳しく書いています。
呼吸と発声は、普通にそれらに関係する身体部分だけのものではなく、「筋骨格系という広範なシステムの一部」だと彼は何度も繰り返し強調していますが、それはアレクサンダーの基本的な考え方です。
(「身体と声」は、92ページという薄い本ですが、9章~12章は「ウィスパード・アー」に関係する練習方法について多くの提案を行っていて、とても実際的です。
8章までは、関連した身体の筋骨格系や、呼吸、声帯の仕組みなどです
9月-11月期のオンライン・クラスでこの本を取り上げて、特に「ウィスパード・アー」について理解して練習して行きます。
「ウィスパード・アー」に関心を持った方はぜひご参加下さい。
詳細:https://yasuhiro-alex.jp/online-2/)