動きを始めるときが「とても重要な瞬間」だと、アレクサンダーは「自分の使い方」で書いています。
彼はいろいろ試して、理解が深まり、感覚認識が上がっていったのですが、それでも声を出そうとすると、その「とても重要な瞬間」に「頭を後ろに引いてしまう」のです。
彼の探求の中で、何度も「それでも頭を後ろに引いてしまう」が現れて、それがアレクサンダー・テクニークの深遠さに結び付きました(表面だけしか見ない人は、その背後にある深遠さに入って行くことができません。)
 それは「字を書くとき」にも当てはまります。
どんな動きにも入れる体勢になって、指や手や腕が不必要な緊張をしなくなったとしても、書き始めようとする「とても重要な瞬間」に、その質が変わります。
動き出そうとするときに、身体の中を流れるエネルギーが、それまでの自分の習慣的なディレクションに戻るからです。
そこには、身体各部の筋肉の癖だけでなく、心的なもの、次の回に書く予定の「眼の使い方」や「マインドの持続性」など、本当にいろいろなものが関係していて、何かを変えようとするときに他のものすべてがそれに抵抗します。
そのような「単純と思える動き」にどれだけ多くのことが関わっているか、に最初は気づけないでしょうし、気づき出しても、それを変える大変さに何度も投げ出したくなります。
(答えの見えないものに根気強く取り組むことが、アレクサンダーの特別な資質の一つでした。)
字を書くことについて、私にとって最も大きな転機は、「押し付けて書く」ことを修正できるようになったことでした。(ギターで左手で指板を押さえるときも、同じことをやっていました。
先生は、「しっかり」という言葉が好きかもしれませんが、それはすべて余計な筋肉緊張を招くだけです。)
 そのためには、「胴体―腕―指―ペン-紙」と行っていた力の流れを、逆に「紙」からペン、指、腕を通って胴体に行かせることです。しかも関係する筋肉がすべて長くなりながら。
簡単にいえば、「ハンズ・オン・バック・オブ・ザ・チェア」(これについては、アレクサンンダーは2冊目の本で詳しく書いています)」、を字を書いている間も使い続ける、ということになるでしょうか。
しかしこれらは、筆記具に大きく影響を受けます。書くときに力の必要な筆記具では、どこかに緊張を作らざるを得ません。
鉛筆なら4Bくらいが適当です。私は調子が良いときには、2BやHBも試してみますが、乱れ始めたら4Bに戻ることにしています。
そのように何年も練習してきたのですが、あるとき気がついたら、手の位置が鉛筆の先からかなり上の方に変わっていました。
意図したわけではなかったので、とても興味深く感じました。
テレビで、小筆のとても上の方を持ってスラスラと筆字を書くシーンを見ますが、それが分るような気がします。
頭からの意図で、指そして鉛筆を動かす感覚はある意味不思議で、多くの人にとって新しいものになるでしょう。
有名なピアニストでホロビッツとグールドという人がいますが、彼らが好むピアノの鍵盤はとても軽いタッチに調整されていて、普通の人はとても弾けないくらいだったそうです。
彼らのYoutube画像を見ると、ほんとに意図で指に指示をだしていて、他が自然に協調している感じがします。
それと似ているところがあるのでは、と思っています。
2023年1月8日(日)の第9回の坂戸ワンデイ・ワークショップ「字を書くときの意識と動きを変える」では、字を書くときの全体の使い方について、参加者一人一人にワークします。その中で自分の課題と、それにどう向かえばよいかの方向性を掴むことができます。
 
参加希望の方は、こちら からお申し込みください。
各個人へのワークの時間を多く取りますので、定員は6名です。