驚くべきことですが、1909年というとても早い時期に、既に学校教育に取り入れたら良いという提言がなされています。

オーストラリのメルボルンのトリニティ・カレッジで校長を務めたアレクサンダー・リーバー博士が、メルボルンのあるビクトリア州の教育委員会にその提言を行いました。

残念ながら、その後の1915年から1923年までオーストラリアの首相だったビリー・ヒューズらの反対で実現しませんでした。
ヒューズは1920年代後半にロンドンでアレクサンダーからレッスンを受け、その効果に感銘して全ての学校で取り上げるべきだと思ったそうです。

リーパー博士はなぜその提言を行ったのでしょうか。
彼は、1908年に休暇でヨーロッパに行ったときに、ビクトリア州の教育委員会からヨーロッパの身体教育の状況について調べるように頼まれていました。
その調査の過程で、ロンドンでアレクサンダーのワークを知り、実際にアレクサンダー自身からワークを受けています。

興味深いことは、前々回に書いたスパイサー医師が、彼に書いた推薦の手紙です。
それは、スパイサーがアレクサンダーと訣別する前でした。
リーパー博士は、スパイサーの手紙の内容を彼のオーストラリアでの調査報告の中に載せています。
それをアレクサンダーは小冊子「なぜわたしたちは間違った呼吸を行うか」で引用しているのですが、それは、スパイサーが既にアレクサンダーが行っていたことを認めていたことの証拠としてでした。

わたしたちにとって興味深いことは、スパイサー医師(おそらくリーパー博士も)が何を評価していたかをはっきり見ることができることです。
小冊子に引用したスパイサーの手紙の一部を引用しましょう。

「その効果は、単に発声だけでなく、人の立ち振る舞い・形姿・全体的な健康にまで及び、わたしがこれまで出会ったどれにも優るものです。とりわけ彼の実践内容が、他の身体教育と異なるのは次の点です。

  1. 身体の力みが全くないので、身体の利用可能なエネルギーを無駄に使わない。
  2. 吐く息で胸部を十分に空にすることによって、呼吸動作は、弾性を持つ跳ね返りの動きになる。
  3. 喘ぐ音を出して息を吸ったり、息をすすり込むことをさせないことで、喉(のど)の粘膜部分での過度の吸い込みが起きないようにする。
  4. 胸部及び腹部の内臓の位置が良くなり、身体の重さを構造的に最も有利にする。」

ずいぶん現在アレクサンダー・テクニークに期待するものとは異なると思いませんか。

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2月11日(月、祝日)のレクチャーでは、これらの内容についても扱います。
興味のある方はぜひご参加ください。
 「アレクサンダーの生涯とその教え方(2回目)」

資料として、上記の小冊子「なぜわたしたちは誤った呼吸をするか」のヤスヒロ訳を添付します。(訳A4で7ページ)
この中では、アレクサンダーの呼吸法を専門家としてのスパイサーがどう見ていたかと、その見方がアレクサンダー自身の表現ではどうなっているかを示していて、さらにはスパイサーの誤りも指摘しています。