1904年にロンドンに渡ったアレクサンダー(教え始めて10年後です)は、しばらくは呼吸に関するリーフレットを作って自分のワークの宣伝を行いました。
その4年後の1908年12月に作った「運動感覚の再教育」で初めて、そのタイトルの内容を行うことで正しくて健康的な身体の動きと姿勢を得ることを、主な内容として扱いました。
このリーフレットで初めて、「インヒビション(抑制)」と「ミーンズ・ウェアバイ(それをするための手段)」という言葉も出てきます。
呼吸と声を主目的として多くの人にワークを行ってきたわけですが、そのためには基本的な身体全体の「使い方」を最初に変える必要があることが、アレクサンダーにとって明確になったのでしょう。
その「使い方」さえ変えれば、呼吸は自然に変わるし、その影響は単に呼吸や声にとどまらず人が行っている全てに及ぶということに、生徒に教えてきた実際の経験から、徐々に自信を持ったと思われます。
その内容は、現代の多くのアレクサンダー教師が教えている内容につながります。
このリーフレットでアレクサンダーは、彼が考えた8つの前提を書き、それに解説を加えています。
最初の4つは、普通の人が何かの活動を行うときの身体の使い方の問題点を指摘しています。
後の4つで、実際にアレクサンダー・ワークで再教育を行うときの大まかな手順と、それを行うときに考えるべき内容について書いています。
参考になるのは、ここで書いている内容がとても具体的なことです。
もちろん「指導の手引」といえるような細かい具体性は無いのですが、アレクサンダーが使っていた言葉が何から出てきたかが伺えます。
例えば「インヒビション(抑制)」は、無意識的に行う間違った動きが起きないようにすることで、例えば「座る」という刺激に「ノー」と言うことではありませんでした。
そのためアレクサンダーは、先生にとって大事なことは、生徒がワークを行うときに行う間違った動きを見つけることだ、と書いています。
同じことが「構造的に有利な姿勢」についても言えます。
ここでは、「構造的に有利な姿勢」は単に「モンキー」になることではなく、呼吸に影響する大事な要因で、その後に続く活動のための基礎となるものです。
現在のアレクサンダー・テクニークの状況をみると、アレクサンダー教師が教える内容は呼吸には直接関係しないように見えますが、このリーフレットではアレクサンダー・ワークによる「再教育」の結果には、呼吸を変えることも含まれることがわかります。
それにより身体が健康になるわけです。
彼が示した前提の最後の8番目には「考えることで動きを起こす」ことについてです。その解説に、(生徒は)「全ての筋肉システムを、自分の意識的な思いからのコントロールにだけ任せます」と書いていますが、身体の動かし方について示唆に富むと思います。
1908年のこのリーフレットは、1910年の「人が受け継いでいる最高のもの(略称MSI)」にそのままの形で載りました。
その1910年の MSI は、スパイサー医師がアレクサンダーの発見を盗用して発表する前に出さなくてはいけない、という緊急性がありました。
MSIは、1918年に他のものを加えて大きく改訂されましたが、このリーフレット「運動感覚の再教育」の内容は1/3ほどが、バラバラにされて残っただけでした。
現在のMSIは、この1918年版を少し改訂したものです。
そのためアレクサンダーの教え方の変化については、残念ながら読み取りづらくなりました。
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2月11日(月、祝日)のレクチャーでは、これらの内容についても扱います。
興味のある方はぜひご参加ください。
「アレクサンダーの生涯とその教え方(2回目)」
資料として、この小冊子「運動感覚の再教育」のヤスヒロ訳を添付します。(訳A4で5ページ)