今回は、身体の前面の線「スーパーフィシャル・フロント・ラインSFL」についてです。

SFLは、前回のSBLと共にマイヤースが「アナトミー・トレイン」で、3つの重要な基幹線として挙げているものの1つです。
これが、アレクサンダー・テクニークの「プライマリ・コントロール」とどのように関係するかを見ていきます。

スーパーフィシャル・フロント・ライン(SFL Superficial Front Line)

「アナトミー・トレイン」で挙げている身体の前面の線には、この「スーパーフィシャル・フロント・ライン SFL」という浅い層の線の他に、深い層の「ディープ・フロント・ラインDFL」があります(前回までの背面の線のSBLには、深い層の線はありません)。
DFLは大腰筋などの太い強い筋肉で構成され、姿勢のコントロールに関わります。

浅い層の筋肉は一般的に脊椎から離れているので、そこに僅かな力が生じるだけでも、身体に大きく作用します。
慢性的に緊張させたくはないものです。

SFLは大きく、次の2つの部分に分かれます。

1.頭から骨盤までの部分
①頭の耳たぶのすぐ後ろの辺りを手で探ると、下方向の突起を感じることができます。
左右にあるその「乳様突起(にゅうようとっき)から、首の骨を横切って、身体前面に行くのが「胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとっきん)」という筋肉です。左右両側にあります。

胸鎖乳突筋の身体前面に付着する部分は、胸の上の方にあって、「胸骨(きょうこつ)」という肋骨の前面の中央にある骨の上端と、その上端で関節を作り、肩に向かって横方向に伸びる「鎖骨(さこつ)」の胸骨に近い部分です。

② その付着部から、「胸骨」に沿って走る筋肉や筋膜があります。(肋骨の5番目まで)

③ その終わりの辺りから、ずっと下の骨盤の末端にある恥骨(ちこつ)まで行っているのが「腹直筋」(普通に「腹筋」と呼ばれるもの)で、ここまでが上の部分です。

2.骨盤から足のつま先までの部分
「恥骨」の位置から骨盤で少し上に戻って、SFLの下の部分が次のように始まります。
④ 骨盤前面の左右両端の上側には、前に飛び出した部分(「上前腸骨棘」と呼ばれています)があり、触れることがきます。
その少し下から、「大腿直筋(だいたいちょきん)」が始まり、それは腿(もも)の前面を通り「ひざの皿」の膝蓋骨(しつがいこつ)まで行きます。

⑤ 膝蓋骨からは、下腿の前面を通り、足首でつま先方向に曲がり、足の上面(背面)を通ってつま先までSFLは伸びています。(筋肉の名前はここでは省きます)

この上部と下部の2つは、骨盤を介して繋がっているので、股関節で折り曲げた状態では2つの部分の関連は少ないのですが、身体でブリッジを行うときのように、伸展させた状態では1つの線として考えることができます。

SFLについても、イメージと自分の実際の身体との関連をはっきり持つことは役に立ちます。もう一度上記の順で、手で身体に触れて追ってみてください。

「胸鎖乳突筋」とプライマリ・コントロール

胸鎖乳突筋は、とても強力な太い筋肉です。
人が頭を動かしているときなどに、かなりはっきりとこの筋肉が浮き出ることを観察できます。

胸鎖乳突筋は、脊椎を境にして、頭の後ろ側の部分(乳様突起)と身体の前側を結んでいるので、この筋肉が縮まると、頭を後ろに引き下げます。
これがとても重要なのは、「頭を後ろに引く」ことは、アレクサンダーが自分の声の障害を調べたときに自分に観察したことで、プライマリ・コントロ-ルを妨げていたものだからです。

この強力な胸鎖乳突筋は、その周りの筋肉との関係の上でその力を発揮します。
次の内容を試して、確認してみてください。

■手で触れて胸鎖乳頭筋の動きを知り、首の可動性を高める

両手の人差指・中指・薬指の指先で、乳様突起の少し下の辺りで、胸鎖乳頭筋に触れます。
そうしながら、次の動きを行います

(1)首の付け根あたり(「頸椎7番」と呼ばれている部分)から、頭を前に傾けます
この動きでは最初に
①頭と首の位置をなるべく変えないで、一つの塊として動かしてみます
==>胸鎖乳突筋には、ほとんど動きがないことでしょう。

次に
②顎を突き出すようにしながら、その動きを行ってみます
==>胸鎖乳突筋が縮むことが、わかるでしょう。

筋肉の動きが良くわからないと思ったら、何度か繰り返したり、動きを変えて行ってみてください。徐々に胸鎖乳突筋動きを指で捉えることができるようになるでしょう

(2)今度は、アゴはできるだけ前に出さないようにしながら、頭を傾けるときの開始の位置を、首の付け根から、徐々に高く上げていきます。

傾ける位置を、脊椎の一番上まで変えることができれば最高です。
やりづらいと感じる人もいることでしょう。

回転の中心が上がってくためには、胸鎖乳突筋が伸びる必要があります。
伸びることができることを、胸鎖乳突筋に思ってみてください。
その思いを、身体が解釈します。

それでもできない場合は 前回まで説明したSBLや、もっと浅い層にある背中の筋肉が引っ張っていて、動けなくなっているのかも知れません。
首の周りのそれらの筋肉に「動いてよい」と指示を出すことで、新しい動きができるようになります。

頭の重心は、脊椎が頭を支えている位置よりも前にあるので、そのままでは、実は頭は前方向に落ちようとしています。
落ちることを止めている胸鎖乳突筋を中心とする筋肉の働きを緩め、調整することで動きが変わります。

上手くできてくると、頭の前への傾きの位置がどこかの「考え」を変えるだけで、脳が首周りの筋肉を調整してそれを実現してくれます。
そして、それができると、「頭の動きが、脊椎の上端(トップジョイント)で起こること」を考えることがもっと効果をもってきます

これらは電車の中などでも実行可能ですので、試してみてください。

(続く)

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