今回はさらに、中腰になるときの実践面について見て行きます。
アレクサンダー自身が示した、初心者のための方法も紹介します。
初めは、前回少し触れた、体重(重心)のかけ方についてです。
4.動きの間と、中腰になった後も足の裏全体で支えられている
ここで「体重を、足の裏全体に乗せる」、と書かなかったことには意味があります。
「乗せる」と指示すると、「脳」が、それについて下向きの指示を出してしまいます。
普通に立っていても、「床の上に身体を乗せる」と考えるときと、「床から支えられている」と考えるときでは、立ち方が変わることを体験できるでしょう。
自分で試してみてください。
「乗せる」ときは、下向きの力を作ってしまいますが、「支えらえている」は上向きの力があることを脳で描くことができます。
「支えられて」いるので、特に何もする必要はありません。
それを頭にいれながら、「乗っている」の方を使いながら、「つま先」側と「かかと」側に体重が乗っていると、どうなるかを実験してみましょう。
「支えている」でも同じことはあるのですが、「乗っている」の方がはっきり違いが分かるからです。
次を行ってみてください。
(1)「つま先」に体重を載せながら、中腰になって、それから戻る
中腰になるときに、ひざへの負担が大きくなることがわかるでしょう。
(2)「かかと」に体重を載せながら、中腰になって、それから戻る
中腰になったときに、腿の前面に手を当てれば、そこにかなり力がかかることが分かります。
(3)どちらにも偏らないようにしながら、中腰になってそれから戻る動作を繰り返して、脚に負担のない使い方を見つけてみて下さい。
実は体重がどちらに載っていても、「頭が身体から離れて行き、身体がそれについて行く」をうまく行うことで、身体に「拮抗的な引張り」(ブログの「プライマリ・コントロールとアナトミートレイン3」参照)が起きて、上記のような負担がかなり減ることも分かります。
状況によっては「つま先」や「かかと」に乗ることが必ずしも悪いわけではありません。
5.「股関節」と「膝」の関連
中腰になる動きを柔軟に行うためには、股関節から前傾し、膝の関節が楽に前に行く必要があります。それが起きるときは、自然に足首にも動きが起きます。
最初は、股関節からの前傾は大きく取る必要があるかもしれませんが、これらの関節で縮めようとする力が減れば、身体への下方向の力が減るので、その前傾は少なくなることでしょう、
股関節を折り曲げる動きは、胴体は垂直のままにして膝を曲げることでも行えるのですが、この場合は、股関節や膝を折り曲げる筋肉は、垂直で動かない胴体の側を固定して、脚や膝を持ち上げるように働きます。
しかし、中腰になったときには、このような固定状態のままではいたくありません。
それでは、動きに制限を与えます(後で述べるように、この動きの後で前傾を加えることで、それは解消されます)。
そのため、本当に身体を前傾させます。
でもそうしようとすると、今度は多くの人が膝を後ろに引いて、膝をいわゆる過伸展の状態にしてしまいます。
股関節で前傾するときに、かなり膝が前へ行くと考えないと、腿の後ろ側の筋肉(ハムストリングス)が、股関節で骨盤が前傾することによって膝を後ろに引っ張ってしまうからです。
股関節での前傾と、膝関節の屈曲が協調的に起こる必要があります。
中腰になる動きを行う
今まで述べたことを頭に入れながら、中腰になる動きを行ってみましょう。
(1)股関節の前傾
股関節から前傾するときは、そこを曲げると考えずに、「お尻が後ろへ行く」と考えます。
それにより、曲げることに集中して、「意識が狭くなってしまうこと」を防ぐことができます。
(2)膝の動き
そのときに、「膝が前へ行く」と考えて、実際につま先の方に行かせて下さい。
そうならずに、両膝が内側に行ってしまう人がときどきいます。
これを防ぐために、最初のうちは特に、両足の爪先を外側にかなり開いてから、「お尻を後ろへ、膝が前に」行かせて、両膝が爪先の方向に行かせることができます。
こうすることで、股関節の周りの筋肉の緊張が減り、股関節が柔軟に使えます。
膝がつま先の方に向かうことを、「両膝が前へ、互いに離れて行く」という指示で行うこともできます。
(3)全体のディレクション
これらを加えたときの、中腰になるときアレクサンダー・テクニークの全体のディレクションは次のようになります。
「頭が動いて、身体全体がついていき、そうすることでお尻を後ろへ、両膝が前へそして離れて行き、そうすることで、___ができる。」
___の部分は、行いたい内容を入れて下さい。
行ないたい内容がないと、ついこの動きがうまく行ったかどうかを確認しようと、「感じ」ようとしてしまいます。
これは、ここでは触れませんが、アレクサンダー・テクニークを学ぶ上で誰もが困難だと分かってくる、とても重要な部分です。
ぜひこれを、日常生活の動きで毎日1回は試してみて下さい。
そのときには、動きだけに集中して、「意識が狭く」ならないように、周りを見ることも大切です。
継続することで、うまくいかないと思うときでも、自分の神経システムにいろいろな情報をもたらしていますし、いつもと異なることを行うことで、感覚が変わってきます。
その微妙な変化は、論理的に考えようとする脳の部分は、気づけないものです。
あるとき突然、大きな変化が意識されて、自分が変わったことが分かるなものです。
アレクサンダーが初心者に教えた二段回で行う方法
中腰になる動きは、特に最初は簡単ではないので、アレクサンダーは初心者には2段階で行う方法を示したそうです。
ぜひ、この方法も試してみて下さい。
1)頭と身体へのディレクションを与えながら、最初に膝を曲げ、少し止まる
このときは、骨盤を前に押し出したり、胸を持ち上げることがないように注意します。
2)そのディレクションを維持しながら、胴体を股関節で前傾する
これについては、「Think More Do Less」(Sean Carey著)という本に詳しく書いてあるのですが、残念ながら和訳はでていません。
次回の内容
中腰になる動きは、イスに座るときにも現れるもので、日常生活で誰もが行う最も基本的な動きです。
ぜひその動きにアレクサンダー・テクニークを取り入れて行ってください。
それは、朝日カルチャーの「疲労を軽減するアレクサンダー・テクニーク」の3回目(来月の6月)のテーマ「腕や手や指を使う作業を楽に行う」につながります。
腕、手、指の動きは、その部分だけの動きでなくて全身によって支えられていて、他の身体部分と協調的に使うことで無駄のない動きになるからです。
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