前回書いたように、SBL(スーパーフィシャル・バックライン)が首の筋肉の浅い層を通らないために、腕の使い方とは直接的は関係しないことは注目すべき点です。

多くの人が腕を重くして、肩甲骨とさらには頭までも下方向に引き下げているので、腕の使い方にワークすることでユースが改善することは良く起こります。
でもSBLを考えると、それが一つの条件に過ぎないと理解できます。
浅い層だけを見ずに、深い層で起こることによる動きを見ることで、頭の繊細な動き(つまり環椎後頭関節での動き)が分かります。

アレクサンダーの姪で、彼から直接教えを受けた第一世代の有名な教師マージョリー・バーローはテーブルで生徒にワークするときに、頭と胴体の使い方にワークしてそれから脚、腕の順番でワークしました。
テーブルで横になっているときには、腕からの影響をほとんど受けないのですぐに頭に向かい、そこを優先的に考えていたわけです。

「後頭下筋」については、「アナトミー・トレイン」の中でマイヤースは、眼球を動かすだけで、後頭下筋に動きが感じられることを書いていますが、それもとても興味深いものです。

SBLを動きに活かす

SBLの位置を知識的に知るだけでは、余り役に立ちません。
自分で何かの動きを行なったり、他の人の動きを見るときに、それがどのように動いているかを考えて見ると良いと思います。

わたしが行ったワークショップでは、最初に身体を崩した状態にしてから「頭が上に動いて身体がついて行く」動きを行ってもらいました。
次に「後頭下筋」の位置を指で触って再確認してから同じ動きを行ってもらい、SBLの動きの変化を観察してもらいました。
「後頭下筋」よりも「僧帽筋」を通る線のイメージを持って動かす人の方が多いので、これだけでも変化が生まれます。

わたしたちは特有のいろいろな動きの習慣をもっていて、SBLの変化はさまざまなケースがあるのでここでは扱いません。
でも一人一人を見れば、多くの動きでその人の全体のパターンに共通なものがあることに気づきます。
そのため、わたしたちは顔を見なくても、その人だと気が付くことができわけです。

アレクサンダー教師の助けを借りると、それを変えることができますが、それが大きいときには、SBL全体の変化をはっきり観察できます。
機会があったら、試してみて下さい。

トーンを上げて、身体の動きを良くする

前にアレクサンダーの
「背中のここから頭が前へ行くように、そして両膝が前へ、お尻が[hips]が後ろへと行くようにディレクションを行っています。それでしか『拮抗的な引張り[antagonistic pull]』を得ることができません。」
という言葉を紹介しました。

「頭が身体から離れていこうとする」だけで「拮抗的な引張り」が起こりますが、何かの動きの中ではもう少しパワーと正確さが必要なときがあります。
イスに座ったり、そこから立ちあがるときには、立っているだけよりもパワーが必要です。

わたしの学生時代の専攻は「機械工学」で、会社勤めをしていたときには光ファイバーでイメージを伝える部品を作る部署にいました。
そこには正確に光ファイバーを並べて巻き取る機械があったのですが、その装置では張力を上げるために滑車を一つ加えていて(テンションプーリーと言います)、ファイバーの張力が適切になり、位置決めが正確になるようにしていました。

頭が身体から離れて行くとともに、膝が前に行き、お尻が後ろに行くことで、そのプーリーと同じように人体のトーンが上がり動きが安定します。

これがアレクサンダーの言う「拮抗的な引張り」が起こることでと思います。
しかし、膝が前に行きお尻が後ろに行っても、頭を引き下げてしまえばトーンはあがらず、その引き下げが大きければ逆にトーンは下がります。

トーンの強さと他とのバランス

ブログへの質問の回答にも書いたように、「トーン」はそれが高まったと感じられるときは、やり過ぎてしまっていて「緊張」になってしまうことが多いものです。

多くの場合で、最初に起こったときの「トーン」の増加は問題ないようですが、繰返し行おうとしてその感じを得ようとするとやり過ぎになります。
その点では、感覚はあてにならないので、アレクサンダー・テクニークで言う「感覚を判断基準にしない」ことは、ここでも大切です。

アレクサンダー・テクニークを自分に使うときや、他の人の動きを見るときに、SBLを考えることは役にたちますが、もちろん身体前面を押し潰していてはいけません。
それがどのように頭の動きと関係するかは、次のSFLの線で考えます。

(続く)

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