一昨日から、新宿・朝日カルチチャーセンターでの3ヵ月講座「楽に歌うためのアレクサンダー・テクニーク」が始まりました。
月に1回(次回は2月16日金曜)で、途中参加もできますので、興味があるようでしたら、ぜひご参加ください。

今回は7名の参加で、前回の「朗読・読み聞」かせからの継続の方が4名いらっしゃいました。

楽に歌うためには

話すときと同じように、一人一人の歌い方にはそれぞれ特徴があります。
その中にはその人の長所となってプラスに働くものがありますし、マイナスに作用し、楽に歌うことの妨げになるものがあります。
みなさんは、歌を歌うときのご自分の特徴をどう知っているでしょうか。

そのことについて考えてもらいながら、一昨日はアレクサンダー・テクニークについてと、呼吸に関係する肋骨周りの構造を説明して、歌うときの自分の身体の使い方、意識の使い方に眼を向けてもらいました。

まだ初回だったので、今回の参加者全体はどのようなグループで、一人一人がどのような特性を持っているかを知るために、簡単な曲を使って、全体で声を出してもらいました。

興味深かったのは、前回からの継続参加の人たちが、それぞれ「朗読」のときと同じ傾向を持ちながらも、歌ではまた違った面を見せたことです。
「朗読」のときには、それほど気にならなかった癖が、歌では大きくなって現れることもありました。

新しい参加者の方々も、それぞれみなさん特徴があり、一人一人大きく異なっていて、バラエティに富んだメンバーです。

その後で2つのグループに別れて、片方のグループが歌っているときに、他のグループに見ていてもらいました。

いつも書いているように、見ることは大切なプロセスです。
ときには、自分自身の歌の変化よりも(これは本人よりも、聞いている人の方が分かるものです)、他の人を見て分かったことの方が強く残り、クラスが終わった後に、自分で自分を変えようするときの力になります。

それは、人の変化の最初のステップは、その違いがわかることだからです。
先生の助けを借りるなどして、何かができたとしても、その違いを他の人の動きなどで認識できなければ、まだ定着できません。

それぞれのグループに、まず歌ってもらい、その後で個人々に短時間ですが、ワークしながら、何度か歌ってもらい、違いを見てもらいました。

そこで起こっていたことで、多くの人に見られる次の2つの点について今回は、書いてみます。
(1)歌うときにどこかを固めてしまうこと
(2)自分に向かって歌おうとすること

一昨日は呼吸も取り上げましたが、呼吸に関心がありましたら、「呼吸と声を改善するアレクサンダー・テクニークが始まりました」 をご覧ください。

(1)歌うときにどこかを固めてしまうこと

これにはまず最初に、立っているときの状態が既に関係しています。
(「立ち姿勢の3つの悪癖」http://wp.me/p8ZvPT-3a で書いていますのでご覧下さい。)

また、歌うときに特有なものもあります。
高い音を出そうとして、頭を吊り上げて、喉を固め、それが身体を固めさせ、呼吸の邪魔をしてしまうなどです。
とても色々なパターンがありますが、それはわたしたちは、どのように声を出すか(「声を大きく」など)の指示を受けることがあっても、どのように身体を使ってそれを行えば良いかについて、ほとんど教わってこなかったからです。

わたしたちが自分の特徴をどう作り上げてきたかを考えるときに、アレクサンダーが彼のテクニークを作ったときの体験が役に立ちます。

ここでは、歌うときに固める個々の癖については触れずに、彼のストーリーとの関連を書いて見ますので、自分の癖を考えるときの参考にしてみてください。

アレクサンダーはどう身体を固めていたか

俳優を志したアレクサンダーは、特に、声の豊かな表現が必要なときに、彼が
「頭を後ろに引き下げて、身体全体に下方向の力を加えて」
いることなどを、を見つけました。
それが、彼の声が出なくなるという障害の原因で、そこからアレクサンダー・テクニークの発見に至りました。

でも、大事なことは、その内容よりも、彼がそれに気づいたことだと思います。
なぜなら、それはほぼすべての人がやっていることで、そもそもそれに悪影響があるとは思っていなかったからです。
その点がアレクサンダーの天才でした。

また、徐々に彼が気づいたのは、それを実は、自分がやろうとしていたことだった、ということです。
それはもちろん無意識的でしたが、彼の何かの考えと強く結びついていました。
彼はまさに舞台で声を使うときに、それが必要だと思い、自分の身体にずっと言い続けてきたのです。
だから、努力すればするほど、ひどい喉の障害となって現れたのでした。

新しい可能性を見つけるために、今までの感覚を疑ってみる

アレクサンダーが、自分の感覚で良いと思っていたことが、逆の結果をもたらしていたのでした。

これについて良く分かってくると、わたしたちは実は、アレクサンダーと同じ状況を、いろいろな場面で経験していることに気づきます(そう気づくことは、簡単ではないですが)。
もちろん歌を歌うときも含めてです。
声を出すときに、自分が必要と思っていたまさにその身体の使い方は、反対の結果を招く場合が多く、それとは真逆の使い方をする必要があるときが多いのです。

アレクサンダーにとって、自分の感覚が「行うように」という指示は信頼できない、ということはとてもショックで、そこから、アレクサンダー・テクニークで重要な「感覚認識は信用できない」の主張を行うようになりました。
ちなみに、アレクサンダーは、感覚に頼らないようにするために、鏡を使って自分が声を出す様子を根気強く観察しています。

自分の感覚を使わずに、自分が何をしているか、への気づきを上げるためには、鏡で自分のやっていことを見る以外には、他の人を見ると良いです。
他の人が、どうやっているかを観察し自分と比べてみて、もしその人のように行うなら、どのように精神と身体を使えば良いかを考えて、ときには真似てみることが役に立ちます。

ぜひ、歌っているときに自分がやりたくなる身体の使い方(考えも含めて)に気づいて見てください。

(2)自分に向かって歌おうとすること

これは、変な表現のように感じるかもしれませんね。
試しに、ご自分で歌ってみて、そのとき、声がどこに行くと考えているかに注意を払ってみてください。

多くの人が、大きな声を出せば、それは伝わるものだと考えていますが、実はそうではありません。
話したり、歌ったりするときに、どこにその声が届くかを考えていると、身体の叡智がそれを実現しようとしてくれます。

聞いている人ではなく「自分に向かって歌う」ことは、特に遠慮がちなタイプの人に多く見られますが、実はだれでもそうなる可能性があります。
本番ではなく練習をしているときに、そうなっている人が多いですし、自分の声がどうなっているかにいつも注意を払い過ぎる人も、そうなります。

こう感じたら、試しに、何かに歌いかけるつもりになってみると良いです。
最初は、近くの対象物を使い、徐々に遠くにしていきます。
(自分のことを忘れないことも大事ですので、自分の身体の使い方にも注意を払います。)
最後には、実際に聞いてもらう場面での、聞き手のことを考え、そこに届けるつもりになると良いでしょう。

それ以外にも、意識を広げるために、例えば電車の中で練習することができます。
最初に自分の近くの空間だけを意識する所から始めて、少しずつ意識を広げてみてください。
自分の身体の使い方に注意を向けながらも、電車の吊り広告を見るなどしても良いでしょう。
見る対象がないと、すぐに意識を引き込みがちになることに気付くかもしれません。
自分で練習したら、他の人を観察して、そのときに、どのくらい意識の広がりがあるように見えるか推定してみてください。

日常生活の中でも、場面場面で、自分がどのくらいの空間を意識しているかに気を配ると良いでしょう。

(3)次回に向けて

身体は、自分の脳が出している命令にとても忠実に従います。
それには、潜在意識的なものが多いかもしれません。
自分では意識していなかった、「どこかを頑張らせる」という考えがあると身体は固まります。
声を伝える対象を「自分」だと思っていたら、声のエネルギーは外に出ようとはしません。

自分の頭の中にある、意識していなかった思いに気づくことで、変えることが可能になります。
ぜひ、それらに気づこうとしてみてください。

「何かを行おう」と無理にしていることをやめること、エネルギーが自分の身体の中に留らないことは、「楽に歌う」ために役立ちます。
「楽に歌う」は、決してリラクセーションではなく、心と身体全体をうまく連動して使い、その自然な使い方を身体が喜ぶことになります。