前回は主にテンセグリティ構造の特徴を見ましたが、今回はアレクサンダー・テクニークと動きとの関連で考えます。

(1)身体全体の張り(トーン)に最も影響する場所

人の身体は写真のテンセグリティ構造のような対称形ではありません。
身体のどの部分も他の部分に影響を与えるとはいえ、その影響の強さは異なります。
アレクサンダーは、頭の胴体に対する動きが「プライマリコントロール(最も影響の強い制御要素)」であることを発見しました。
それが動物の動きの基本的な動作のしくみであることを、ドイツのマグナス教授や、アメリカのコグヒル教授が科学的に証明しています。

つまり人体というテンセグリティ構造では、頭の動きが身体全体に最も大きな影響を与えるということです。
そのため、最初に「頭が動いて」という指示をします。
みなさんは、「頭が動いて」と自分に指示したときに、身体は膨らむような感じがしますか、それとも絞られるような感じがしますか。

1951年からの2年間、F.M.アレクサンダー(1869-1955)から多くの個人レッスンを受け、その後で教師養成トレーニングを入ったゴッダード・ビンクリー Goddard Binkleyという人がいます。
当時の日記を記した彼の本「THE EXPANDING SELF(広がる自分)」は、晩年のアレクサンダーが指導に使っていた言葉を知ることができる貴重な本です。
わたしは彼の本の題名を見ると、いつも写真のテンセグリティ構造が三次元的に大きくなることや風船が大きくなることを思い浮かべます。

(2)適切な張り(トーン)

1)左の風船は、かなり空気が抜けています。
この状態では、風船に力を加えれば、すぐに変形します。
このように張り(トーン)が弱いと、すぐに動きますが、必要なときに力をだすことはできません。
押されたら、押されたままです。

人の身体についても、同じことが言えます。
アレクサンダーは、身体に緊張のある人よりも、そのようなトーンの無い人の方が回復させることは大変だと言っていたそうです。
長期の病気を患った人は、そのような張り(トーン)が少なくなっています。

2)もっと空気を入れて見ました。
適切な張り(トーン)があることで、弾力性を持つことができます。
力を受けるとエネルギーを構造体の中にためて、そのエネルギーを使って、加わっている力を押し返すことができます。
力がなくなったときに元の形に戻るパワーも強いです。

 

 

 

3)さらに空気を入れて、張り(トーン)を強めます。
空気の入り過ぎた風船は、いつ破裂するか危ない感じがします。
人間の身体でも、ときどきとても大きなパワーが必要なときは、このようにすることがあります。
重量挙げの選手が、バーベルを持ち上げている瞬間などです。
その張りを保つためにエネルギーを出し続ける必要があります。

筋肉は使った後に、すぐに完全に元の状態に戻るわけではないので、大きな張り(トーン)が残ることがあります。
それがひどくなると、身体を鍛錬し過ぎた人が、いつも力が入った状態になる人がいます。

逆に、力を余り使わない生活をしていると、筋肉のパワーが落ちてきます。

教員時代に、ときどき20Lの灯油ポリタンクを両手に持って、校舎外の灯油庫から、階段を昇り二階の職員室まで運びました。 降ろした後しばらくは、身体は違った感覚になります。少し動作が軽くなった感じがしました。

(3)適切なトーンの難しさ

わたしたちは、自分の身体をダラッとさせたり、緊張させることで自分の張り(トーン)を変えることができます。
そのため、身体に適切な張り(トーン)が必要だと学ぶと、頭から筋肉に、その直接的な指示を行ってそれを起こそうとします。

そして「自分の身体に張りを感じる」まで指示を行いますが、それは既に適切な張り(トーン)を通り越してしまっているようです。

適切な張りを見たいときは、著名なアスリートや演奏家の動きを見て下さい。

また、行っていることに適したトーンは、その動作によっても異なります。
自分が行っていることとの関連で、個人個人が適切な「張り(トーン)」が何かを、見つけて行く必要があり、それが熟達ということになるでしょう。

わたしは、自分への指示としては「力をだらっと抜くわけではない」程度に考えています。
アレクサンダー・テクニークを使うなどの他の要因によって間接的に起こるもので、直接的に指示するものではないと思います。
トーンに影響する要因と、動きの中のトーンについては、次のブログでもう一度考えます。

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