授業のスタイルについての5回目です。

(5)プリントを使う授業、学習には必要な時間をかける

先生になりたての頃は、授業の時間をどう埋めるかがまず差し迫った問題です。
なんとか授業の形でその時間を過ごすことは、それほど簡単ではありません。
それが苦労でなくなったところで、ようやく本格的に授業の質に取り組めます。

1年目にプリントを使って教えた「原動機」は、週2時間の授業でした。
その100分をなんとか考えることに必死で、毎週その内容が固まって準備ができたときには、ほっとしたものです。

何年か教える経験を積み、資格試験のために「アセンブラ」という言語を教えるようになったときには、時間があったので、事前に相当の準備ができました。

自分で関係の試験を受けて「アセンブラ」の全体像を把握し、内容を整理し、どうやって短時間に効率的に学べるかを考えました。
そう考えたら、ゆっくりとノートを取らせるような授業をしていては、授業時間がかかり過ぎるように思いました。
枚数を最低限に押さえたプリントの形にして、効率的に学ばせることにしました。
そして、試験の過去問をやらせます。
枚数が少ないので、一度学習すれば、疑問に思ったときにすぐに戻って理解し直すことができます。

そう進めたのですが、後で疑問を持ちました。
先生が時間をかけてまとめたものは、どのくらい生徒の学習に効果があるかについてです。
生徒の学ぶプロセスについての配慮が少なかったと思います。
わたしの教材準備は、自分の受験用のまとめノートを作ることに似ていました。
そして、そのプリントは、最初から受験用の重要事項暗記集を与えるようなものでした。

教材研究に時間をかけた先生の頭の中で整理されたものは、まとまり過ぎてしまいます。
その整理の過程のプロセスの重要性を考えないと、学習内容への感覚が育ち、学んでいる内容が定着する時間を取れなくなります。
「アセンブラ」のプリントも、能力の高い生徒には良かったのですが、全生徒へのものと考えると、十分でなかったと思います。
(そのプリントは資格試験には有効でした。わたしのプリントで学習して国家試験に合格した数学の先生が「あれで十分だったよ。」といってくれました。)

これを感じてから、そのような内容にプリントを使うことはやめて、ノートを取らせることに戻ることにしました。

短時間で理解させても、学習内容の定着にならないことを痛感したことがあります。
「ネットワーク技術」という情報系の内容の3年の選択科目を、服飾デザイン科の生徒が受講したときです。
彼女は、本人の希望でないのに、他の科目の選考に外れて取らざるを得なくなった、という状況がありました。
休みの多い生徒で、そのままでは定期テストで点数を取れないことは明らかでした。
そのため、テストの直前に補習をすることにしました。
驚いたことに彼女にとっては、他学科の専門科目なのに、とても理解が早く、1学期間の半分の学習内容を2時間ほどで伝えることが出来ました。
情報技術科の生徒と比べても十分優秀です。
その直後の定期試験でもある程度の点数が取れました。

ところが、2~3週間たった後に、授業で質問したときには、基本的なことを答えられないのです。
授業で時間をかけて定着させることの意味を、そのときに改めて実感しました。

ノートを主な学習手段にしても、ときどき資料や図で複雑なものが必要なことがあります。
それをノートに取らせるとかなり時間がかかり、時間の無駄になります。
そのようなときはプリントを使いましたが、多くの先生が経験されているように、プリント配布には欠点があります。
生徒が無くしてしまうことと、ファイルに綴じさせたとしても、ノートと別々になるため、時間をかけて勉強する生徒にしか、テスト前に活用されないことです。

そのため、次のような方法を取りました。

■プリントをノートに貼る
図やプログラムなどで資料的に必要なものは、貼付け用のプリント(ときどきは生徒のために小片を配りました)にしてノートに貼らせました。
生徒はハサミとノリの準備が必要です。
その方法を使うと決めた授業では、年度の初めに、意識して多くのプリント貼り付けを行う機会を設けました。
切り貼りでのノートの作成を生徒の習慣にする必要があるからです。
(生徒は、まれにしか行わないようなものは、面倒だと思って実行しません。)
それが定着しているかどうか確認するために、中間、期末テストの1週間前(後ではなく)にはノート提出もさせました。
簡単な評価とチェックをしてすぐに返します。テスト勉強の準備ができている必要があるからです。

勉強の基本手段がノートだったので、生徒のノートの作り方の技術も少しは上がったと思います。

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