今回からしばらくは、わたしが高校の教員として、どのように自分の授業のスタイルを作って行ったかについて書いていきます。
決して良い方法を提案しようとする意図はないのですが、そのときどきで感じたことがどのような教え方を作ったかは、何かの参考になるかもしれません。
先生以外の人も、試しに読んでみてください。

わたしが教員になりたての頃、機械科の高齢の先生が、学期の初めに教科書をしばらく見て、「これで今学期の教材研究は終わり」とつぶやいたのを聞きました。
既に、何年もその教科を教えていたからだとは思うのですが、その先生の授業は主に教科書を読むという、おそらく今ではほとんど見られない進め方でした。

27年間の教員生活の中では、いろいろなやり方で授業を試してきました。
「工業」という教科で採用されたことと、所属した学科が「機械科」→「電子機械科」→「情報技術科」と変わったことで、数えてみると20科目ほどを教えています。

科目ごとの特性にあった方法を探りながら、自分のために、自分が教えやすくて納得いく方法を探してきたのだと思います。

(1)実際に仕事で使うことの意味

機械工学の修士課程を修了し、会社で5年間働いた後に、30歳で高校の教員になりました。
会社でやっていたのは、内視鏡用の光ファイバーの製造工程の改良です。
最初の半年ほどは、製造現場で一緒に働きました。
修士課程を出たといっても、会社に入ったばかりの頃は、実際的なことはほとんどわからず、技術もありません。高卒の人たちに教えてもらうことだらけです。

新設の大学の一期生だったので、何年も最上級生を過ごした後での、久しぶりの無力感でした。
わたしは、製造機械の調子が悪くなってもうまく調整できなかったし、機械部品の加工もうまくできません。

退社する数年前ですが、実験のための準備でヤスリがけをしていたら、女子社員から「似合わない。」と言われたことを覚えています。さまになっていなかったのですね。
わたしと高卒の人たちの違いは、技術の高さではなく、仕事全体の中のどの分野を担当するかでした。

それはともあれ、印象に残ったのは、大学で学んだときには難しいと思った知識を、現場の人たちが、自信を持って使っていたことです。

実際に仕事としての成果を出しながら、繰返し行うことで、高いレベルの知識を現場の人たちが持っていたことでした。

自分の授業に、現場が持つこの教育の力の要素(繰り返しとコミットメント)を加えることができないか、という思いは、ずっと根底にありました。

また、会社勤めを経験していたことで、生徒の実際の働き方のイメージを持てたことは、行っている授業が、どう卒業後にプラスに作用するかと考える材料になったと思います。

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